第162章 ありがとう

古川静弘が会社へ戻ったとき、指先にはさっき車のドアに触れた冷たさがまだ残っていた。けれど胸の内は、ずっと羽鳥一弥のことに引っかかっている。あの微熱はあまりにも唐突で、理由もなく心臓をきゅっと掴まれるようだった。

眉間を指で押さえ、彼は秘書へ電話を入れる。声は低く、冷たい。

「星光幼稚園で最近、園児の体調不良が出てないか調べろ。それと一弥の風邪の原因も。細かければ細かいほどいい」

もし誰かが意図的にやったのだとしたら――羽鳥秋葉と子どもに、これ以上一片たりとも屈辱を味わわせるわけにはいかない。

秘書の仕事は早かった。夕方には調査結果が届き、控えめに一礼して報告する。

「古川社長。確認...

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