第172章 信頼危機

羽鳥秋葉は数秒、黙ったまま指先で扉の板をそっと撫でた。

古川静弘の気持ちはわかっている。今の彼が、どれほど慎重に距離を測っているのかも。けれど心の奥に引っかかったままの一線だけは、どうしても越えられなかった。

ゆっくりと扉を引く。すう、と引き戸が滑る音が、静まり返った花屋の中にやけに鮮明に響いた。

開いた瞬間、二人の視線が空中でぶつかる。

古川静弘の目が、彼女の青白い顔に落ちた。目の下にはうっすらとした隈。明らかに一睡もしていない。

その視線は一拍だけ留まり、すぐに逸れる。玄関先に置かれた救急箱へ。

彼は動かない。ただ、取れと目で示すだけ。指先がわずかに丸まり、何か言いかけて飲み...

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