第53章 離婚協議書

無争議の離婚手続きを進める必要がなければ、羽鳥秋葉は一生、古川静弘の会社の玄関をまたぎたくなかった。

来てみれば、前回と同じだ。古川静弘はまだオンライン会議の真っ最中で、彼女は応接室で待つよう案内される。

前回の教訓は生きている。羽鳥秋葉は二度と食堂へ行って、不愉快を拾いに行く気はなかった。

――けれど、行かなくても向こうからやって来るものがある。

困り顔の秘書が弁当箱を両手で抱え、どこか気まずそうに口ごもった。

「奥さま、こちらは……古川社長から、奥さまにお持ちするようにと……」

羽鳥秋葉は蓋を開け、ちらりと中身を確認した。

白いご飯の上に、分厚いトンカツがどん、と乗っている...

ログインして続きを読む