第3章
私は上体を後ろへ反らした。
死んだように力の入らない脚がマットレスの上をずるずると引きずられ、ベッドの縁へ重く崩れ落ちる。
「ただ……体重を移そうとしただけで……」息を荒くしながら、どもって言った。
「椅子のせいで腰が痛くて……」
宗一郎は答えなかった。
だが、薄暗い廊下の明かりに目が慣れた瞬間、血の気が引いた。
宗一郎の背後、真っ黒な影の中に、美津子が微動だにせず立っていた。
瞬きもしない目は私の顔など完全にすり抜け、ふくらはぎの筋肉だけを冷たく捉えている。転ぶまいと腱を一本でも動かしていたら、見抜かれていたはずだ。
換気口の赤い点滅灯が脳裏でちらつく。立ったところを、見られたのか――?
私は太腿に爪を食い込ませ、鋭い痛みで悲鳴を上げたい衝動を押し潰した。
宗一郎が部屋に入ってくる。片手には重たいコードレスの電動ドリル。もう片方の腕の下には、分厚い木の板が何枚も抱えられていた。
「夜風が冷えすぎる」唸るように言い、まっすぐ窓へ向かう。
「神経の回復に悪い。塞ぐぞ」
美津子がその後ろからふらりと入ってきた。手には重たい爪付きハンマーがぶら下がり、ゆらゆらと揺れている。
逃げ場を塞がれていく。家畜を檻に押し込むみたいに。
私は被害者を演じなければならない。
手を伸ばし、美津子の漂白剤の染みたカーディガンの裾を掴んだ。
「美津子……」囁き、無理やり涙を頬に落とす。
「私、もう歩けるようになるの? 怖いよ……」
美津子がぴたりと止まった。見下ろし、汚れのこびりついた爪で、震える私の手を握り返してくる。
「大丈夫よ、いい子」母親のような声が、吐き気がするほど本物めいて甘い。
「ちゃんと治してあげるからね」
すぐに理解した。私が無力で、麻痺した人形でいる限り、「肉」はまだ熟していない。完治するまでは解体されない。
ブウウウウゥゥゥン。
ドリルが悲鳴を上げる。宗一郎は三インチのネジを板越しにねじ込み、乱暴に窓枠を封じていった。唯一の逃走経路が消える。
額の汗を拭うと、彼はベッドへ歩み寄り、汚らしい手で私の膝頭をがっちり掴んだ。
「いい子にしてろよ、結衣」囁く声。狂ったように生気のない笑みが顔いっぱいに伸びる。
「ここがピクッとでもした瞬間……真っ先に宗一郎おじさんに言うんだ」
私は必死に頷いた。
彼らは灯りを消した。外からデッドボルトがカチリと閉まる音がした。
私は真っ暗闇の中に座った。もし歩けると確信しているなら、窓を板で塞ぐなんてしない。宗一郎は膝を握って試したのだ。
まだ監視映像は確認していない。
私はマットレスとベッドフレームの隙間に両手を深く突っ込み、武器になりそうなものを必死に探った。
指先が、硬くて冷たい金属に引っかかる。
引き抜いた。床板の隙間から差し込む月明かりの細い筋の中で、私は切れた銀色のチェーンを掲げた。
先端に、小さな三日月のチャーム。特注の刻印が入っている。
肺が締め付けられた。
妹の未亜のアンクレットだった。あの子は一度も外さなかった。
未亜はこの郡で殺されたのではない。この家に、まさにこの家に監禁されていた。まさにこのマットレスの上で、脚が治るのを待ちながら、枯れていった。回復が死刑宣告だと知らないままに。
私はアンクレットを握り潰し、金属が掌に食い込んで切り裂いた。
そのとき、かすかな擦れる音が静寂を割った。
凍りついたまま、寝室のドア下を見た。廊下の光が滲む小さな隙間――そこが、塞がれている。
床板にぺたりと押しつけられた目が、半インチほどの隙間から部屋の中をまっすぐ覗き込んでいた。
私は嗚咽を飲み込み、両手だけで盲目のまま死んだ脚をマットレスの上へ引き上げ、転がるように横になると、毛布を頭まで引きかぶった。
私は一晩中、闇の中で声を殺して泣いた。だが悲しみの底で、冷たく毒々しい憎悪が煮え立っていた。こいつらの血を流させてやる。
――
翌朝、美津子と宗一郎は私を居間へ転がしていった。
「今日は南の畑の世話をしなきゃね」美津子が滑らかに言う。
「大悟がここに残って、あなたを見てるから」
玄関の鍵が背後でかかった瞬間、大悟は掃除のふりをやめた。
車椅子の私の周りを、のろく重たい円を描くように歩き始める。
白濁した目は私の太腿にだけ貼りついていた。ひどく焼けただれた唇の端から、よだれが一本垂れる。
私は窓の外、敷地を取り囲む頑丈な金網フェンスを見つめた。美津子と宗一郎は畑仕事なんかしていない。たぶん奥の部屋に隠れて、ようやく監視映像を見返しているのだろう。
大悟は知的に遅れている。答えが欲しいなら、いまこの場で屠殺人からこじ開けるしかない。
私は顔を両手に埋め、みっともない大声で泣きわめいた。
「大悟!」肩を震わせるふりをして嗚咽する。
「もうずっとだよ! 私、もう回復しない! 腰から下、完全に死んでるの!」
大悟が歩みを止め、崩れた顔を傾けて舌打ちのような音を鳴らした。
「ちがう、ちがう、ちがう」ぜえぜえと息を漏らし、不快なほど近くへ寄ってくる。
「あれ、すぐ良くなるんだ」
興奮で体が震えているみたいだった。
「椅子に乗っていた、他の綺麗な女の子たち! みんな泣いてた。でも七日経つと――バン! 脚が全部治る。」
脂ぎった指を私の胸へまっすぐ突きつける。
「それで今日……今日は、おまえの七日目だ」
心臓が止まりかけた。ポケットの警告。日数。これは流れ作業の解体ラインだ。
「どこへ……どこへ行ったの、大悟……?」声が、純粋な恐怖で震えた。
大悟は腐って黒い歯をむき出しにして笑い、ゆっくり手を上げて裏手の窓の方を指さした。
「外へ。扉出て、右」くすくす笑い、声を掠れた囁きに落とす。
「錆びた古い納屋。中にいっぱい、おまえ待ってる」
私は、伸び放題の草の向こうに孤立して建つ、板で打ち付けられた巨大な建物を見た。
その瞬間、大悟の笑みが消えた。
