第52章 彼女を捕まえて連れ戻す

矢吹薫は胸の内で、露骨に苛立っていた。

歩調を速める。頭の中にあるのはただ一つ――林田唯月を、いち早く見つけなければならない。

そのとき背後で、短い悲鳴が上がった。

椎名伴凪が、床に崩れ落ちていた。

片手をついて身体を支え、顔を歪める。苦痛に震える声で言った。

「薫……わ、私……お腹が痛い」

矢吹薫は足を止め、踵を返す。

椎名伴凪を抱き起こし、低く重い声で言った。

「……悪かった」

椎名伴凪は彼の手を掴み、目を真っ赤にして訴える。

「薫、どうして……どうしてあの人にそこまで執着するの? 唯月さんにだって、唯月さんの人生がある。もう離婚したんでしょう? 違うの?」

矢吹薫...

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