第53章 策に嵌った

結城羽は我に返り、反射的にドアを閉めようとした。だが――遅かった。

男は片手で扉を押さえ、そのまま力任せに蹴り飛ばす。

ガンッ!

蝶番が悲鳴を上げ、扉が強引に開かれた。

その瞬間になって、結城羽は林田唯月の忠告を思い出す。矢吹薫が、ここまで狂うはずがない――そう高を括っていた。

けれど、目の前の矢吹薫は、想像以上に歪んでいた。

結城羽は喉の奥の震えを無理やり押し殺し、怒鳴り返す。

「何しに来たの? ここはあんたを歓迎しない!」

「林田唯月は?」

矢吹薫は取り合う気もなく、結城羽の横をすり抜けて部屋に踏み込む。リビングから寝室、奥の空間まで、角という角を荒々しく探し回った。

...

ログインして続きを読む