第212章 キスしてもいい?

一面の白。遠くの林まで、雪がふわりと覆い尽くしている。

玉井彩歌はまつげを小さく震わせ、遠景から視線を戻した――その瞬間、潤んだ瞳と真正面からぶつかった。

……鹿だ。

童話の中でしか見たことのない、あの鹿。

彩歌が実物を見るのは、これが初めてだった。

「わぁ……」

思わず声が漏れる。触れてみたくて手を伸ばしかけるのに、怖さが先に立って、指先が宙で止まった。

背後にいた日野弦羽が、そっと彼女の手を包み込む。そのまま導くように、鹿の頭へ――。

少し硬い毛並み。溶けた雪のひんやりした冷たさが混じって、妙に新鮮だった。

彩歌はぱっと振り返り、きらきらした目で弦羽を見上げる。

「す...

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