彼女は振り返らない

彼女は振り返らない

桜井 ゆい​ · 連載中 · 403.6k 文字

749
トレンド
2.6k
閲覧数
69
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

夫があの女を腕に抱き寄せた、まさにその瞬間——私は地面に倒れ伏していた。背後では、爆破された滑走路から、まだ煙が立ち昇っている。

「あの孕妇……なんだか、かわいそう」

彼の腕の中にいる彼女が、そんなふうに口を開いた。声はやわらかく震えていて——どこまでも無垢で、善良で、陽だまりのようにあたたかかった。

私が、どうしても演じることのできないその表情。

もしも彼女を抱きしめているのが私の夫でさえなければ、もしかしたら、私でさえ彼女に好意を持ったかもしれない。

かつて彼が、昔の私にそうしたように——。

チャプター 1

焦げついたような匂いが、空気の底にべったりと沈んでいた。

玉井彩歌は地上支援車両の残骸にもたれ、手首に巻かれたガーゼへじわじわと血が滲んでいくのを、ぼんやり眺めていた。

半時間前、滑走中の機体が事故を起こした。たまたま近くで持ち場についていた彼女は、凄まじい衝撃に弾かれ、そのまま地面へ叩きつけられた。

現場は阿鼻叫喚。腕も、飛んできたアルミ片で切り裂かれている。

そのときだった。

人混みの向こうに、見慣れた背中が現れた。

浅見朝治。

折り目ひとつ乱れていない機長制服に身を包み、その腕の中には新任の事務長、牧野晴が抱きかかえられていた。

細い腕が彼の首に絡みつき、顔は肩口へ埋められている。かすかな嗚咽だけが、途切れ途切れに漏れていた。

浅見朝治の歩みはぶれない。彼はときおり俯き、何かを優しく囁いている。眉間には、あからさまな心配の色が濃かった。

玉井彩歌は、その場で凍りついた。

手首から落ちた血が、指先を伝ってぽたりと地面に落ちる。

名前を呼びたいのに、喉が塞がれたみたいで、ひとつも音にならない。

二人が近づいてくる。

牧野晴はたしかに怯えているようだったが、目立った怪我は見当たらない。整った化粧は崩れておらず、首筋には淡いピンクの蝶のブローチがきらりと光っていた。

ふいに彼女が目を上げる。

その視線が玉井彩歌をかすめ、小さな声で浅見朝治に言った。

「朝治さん、あの妊婦さん……見てて痛々しいです。付き添いの人、いないんでしょうか」

浅見朝治はその言葉につられるように、ようやくこちらを見た。

視線が玉井彩歌の上に落ち、わずかに眉を寄せる。けれど次の瞬間には目を逸らし、牧野晴へ低く告げた。

「救助はもう入ってる。俺たちがいたら邪魔になる」

そう言い残すと、彼は腕の中の少女を抱いたまま別の通路へ向かい、二度と振り返らなかった。

玉井彩歌は、角を曲がって消えていくその背中を、ただ見送った。

掌が、無意識に腹へ当てられている。

そこに鈍い痛みが走った。

視線を落とすと、濃紺の制服のズボンに、いつの間にかさらに濃い染みがじわりと広がっていた。

「彩歌さん! 出血してる!」

同僚の悲鳴が飛ぶ。

担架へ乗せられ、視界がぐらりと揺れた。

客室乗務員たちや地上係が群れになって通り過ぎるたび、零れ落ちる断片的な声が針のように耳へ刺さる。

「見た? 浅見機長、さっき牧野晴さんをずっと抱えて出てきたの! 事故の瞬間、真っ先に飛び込んで庇ったらしいよ」

「だって牧野さんって、もともと浅見機長の高嶺の花だったでしょ。航校時代じゃ有名な二人だったし。牧野さんが海外研修に出たとき、浅見機長を気の毒がる声、すごかったもん」

「それそれ。しかも牧野さんを国際線から引っ張ってきたのも、浅見機長がかなり動いたって噂だし。技量もサービスも一流、おまけに美人。ああいう華のある人じゃなきゃ、浅見機長には釣り合わないよね」

玉井彩歌は、指先を掌へ深く食い込ませた。

華がある。眩しい。

そうなのだろう。

自分の膨らみ、歪んだ身体を見下ろし、ぎゅっと目を閉じる……。

脳裏にふっと蘇る。

機長資格を手にした、あの日のこと。

夕焼けが綺麗で、ただ嬉しくて、真っ先に彼に見せに行った。

けれど彼は、証書を見た瞬間に眉をひそめた。

「玉井彩歌。俺が必要としてるのは家庭を優先する妻だ。毎日外へ出て、空を飛び回る女じゃない」

あの機長制服を、彼女が着たのはその日一度きり。

資格を取った記念に、こっそり袖を通しただけだった。

冷たい風が空港の門から吹き込み、血と埃に汚れた制服を容赦なく貫いていく。

処置を終え、胎児に異常なしと確認されてから、玉井彩歌は疲れ切った身体を引きずって家へ戻った。

義妹の浅見朝日がソファにだらしなく寝そべり、テレビを見ている。物音に気づいても、まぶたひとつ上げなかった。

「帰り遅すぎ。早くご飯作って。お腹空いたんだけど。あ、それと私のあのスカート、手洗いしといて。洗濯機はなしね」

玉井彩歌は壁に手をつき、ゆっくり靴を脱ぐ。腹は重く沈み、手のガーゼの下もずきずき痛む。相手をしている余裕などなかった。

動かない彼女を見て、浅見朝日はスリッパをずるずる引きずりながら近づき、見下すように言った。

「聞こえてる? お腹空いたって言ってんの。あんた、雑用係みたいなもんでしょ。だったらやるのが当たり前じゃん。早くして」

玉井彩歌は顔を上げ、無表情のまま一瞥しただけで、そのまま彼女の脇をすり抜けて寝室へ向かった。

「は?」

浅見朝日は一瞬呆け、それから金切り声を飛ばした。

「何その態度! 偉そうにしてんじゃないわよ! 自分の面、鏡で見たことある? 兄さんがあんたなんかと結婚したせいで、こっちは大迷惑! ただの地上係が、兄さんに釣り合うわけないでしょ! 子ども産んだらさっさと追い出してやるから、覚悟しときなさいよ!」

バンッ、と。

玉井彩歌は寝室の扉を閉め、毒みたいな罵声を外へ遮断した。

扉にもたれたまま、ずるずると床へ座り込む。

ガーゼの隙間からまた血が滲み、胸の内は荒野みたいに乾ききっていた。

ポケットのスマホが震える。

取り出して見ると、画面には飛行指導教官、林田永清教授の名が表示されていた。

「もしもし、林田先生……?」

声は少しかすれていた。

「彩歌!」

林田教授の声は相変わらずよく通り、まっすぐだった。

「こっちの航空会社で、経験のある機長クラスを急募してる。来る気はあるか? 会社が機種転換訓練を支援する。今後、海外での研修の機会もある」

玉井彩歌は息を呑んだ。

機長。研修。

返事がないのをどう受け取ったのか、林田教授はひと呼吸置いてから探るように言う。

「浅見朝治のことは……」

「行きます」

玉井彩歌は遮った。迷いは一切なかった。

「ありがとうございます、先生。その仕事が必要です」

通話を切ると、身体の芯に沈んでいた疲れが少しだけ軽くなった気がした。

心の奥で、何かが殻を破ろうとしている。

彼女は立ち上がり、扉を開けて水を注いだ。そういえば今日は、まともに水すら飲んでいなかった。

ちょうど飲み終えた頃、浅見朝治が帰ってきた。

彼は玉井彩歌を見るなり、抑えきれないように眉をひそめた。顔を背けかけたそのとき、彼女の手のガーゼに気づき、眉間の皺がさらに深くなる。

「どうした」

声には露骨な嫌気が混じっていた。

「今日、事故現場で少し引っかけただけ」

玉井彩歌は短く答えた。声に起伏はない。

浅見朝治は唇を結び、それ以上は追及せず、外套をハンガーへ掛ける。

その瞬間。

玉井彩歌は、はっきり見てしまった。

彼の外套の襟元に、淡いピンクの蝶のブローチが留められている。

空港で見た、あの首筋のものとまったく同じだった。

呼吸が、かすかに止まる。

浅見朝治――彼女の夫は、几帳面で、役に立たない装飾品を嫌う人だった。

かつて誕生日に、彼女が手縫いした飛行機柄のキーホルダーを贈ったときも、ろくに見もせずに言った。

「こういう子どもっぽいものは、もうやめろ」

幼稚なのが嫌だったんじゃない。

彼女が渡すものだから、いらなかっただけだ。

胸の奥を鋭く刺されるような痛みが走り、酸っぱい苦さが広がる。けれど玉井彩歌は、すぐにそれを押し込めた。

浅見朝治は外套を掛け終えると、ネクタイを緩め、ふと思い出したように彼女の腹へ目を向けた。

そして、冷えた声で問う。

「子ども……何ヶ月だ?」

最新チャプター

おすすめ 😍

伝説の天才、偽りの姿だ

伝説の天才、偽りの姿だ

18.6k 閲覧数 · 連載中 · ショコラ風味
トップ組織のS級エージェントであり、冷徹無情、そして圧倒的な知性を誇った主人公。しかし、仲間に裏切られ、無残にも殺害されてしまう。

だが、目を覚ますと、知能が低いと見下されている「不細工な女子大生」へと生まれ変わっていた。

容姿を嘲笑われれば、自ら開発したスキンケアクリームで誰もが息をのむ美貌へと変貌を遂げる。

知性を馬鹿にされれば、世界最高峰の大学の総長が自らスカウトに訪れ、医学界の権威は秘密の処方を求めて跪き、国際的なトップスターは楽曲の編曲を求めて彼女を追いかける。

二度目の人生こそは平凡な生活を味わおうとしたものの、隠された正体が次々と暴かれ、気づけばまたしても世界の頂点へと上り詰めてしまう。

背後には無数の配下を従え、その傍らには彼女を守る冷徹な実力者が寄り添うが、この冷徹な男は何かと嫉妬深く、彼女を翻弄してくるのだった。
追放された偽物の娘、その正体は最強でした

追放された偽物の娘、その正体は最強でした

788.6k 閲覧数 · 連載中 · ゲゲゲ
「本物の娘が見つかった。お前はもう用済みだ」
あの子が現れたその日、私は『偽物の娘』として家を追い出された。
渡されたのは、わずかな小銭と地方行きの片道切符だけ。
さらに婚約者は私をゴミのように捨て、その日のうちに『本物』であるあの子にプロポーズした。

……上等じゃない。せいぜい勝った気でいればいいわ。
だって彼らは、私の【本当の顔】を何一つ知らないのだから。

名門病院が見放した命を救う『天才外科医』。
オークションで数億円の値を叩き出す『伝説の画家』。
裏社会の闘技場で無敗を誇る『影の女王』。
そして――彼らの全財産すら小銭に思えるほどの『真の巨大財閥の後継者』であることを。

今さら元婚約者が土下座で許しを請おうと、本物の娘が嫉妬で狂いそうになろうと、もう遅い。
かつて私に婚約破棄の書類を叩きつけた冷酷で傲慢なCEOでさえ、今や何かに取り憑かれたように私を追い回し、「もう一度だけチャンスをくれ」とすがりついてくる始末。

私を捨てて、自分たちの人生を『アップグレード』したつもり?
笑わせないで。最初から、圧倒的に上の存在だったのは私のほうよ。
不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

3.2m 閲覧数 · 連載中 · 七海
初恋から結婚まで、片時も離れなかった私たち。
しかし結婚7年目、夫は秘書との不倫に溺れた。

私の誕生日に愛人と旅行に行き、結婚記念日にはあろうことか、私たちの寝室で彼女を抱いた夫。
心が壊れた私は、彼を騙して離婚届にサインをさせた。

「どうせ俺から離れられないだろう」
そう高をくくっていた夫の顔に、受理された離婚届を叩きつける。

「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」

初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。

「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
「良き元カレというのは、死人のように静かなものだよ?」

「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。

「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」
社長の逃げた妊娠妻

社長の逃げた妊娠妻

23.2k 閲覧数 · 連載中 · ユイ
川崎佑哉は上半身裸のまま、江原安美の上に覆いかぶさり、大きな手で彼女の柔らかな胸を撫で上げた。

江原安美は甘い吐息を漏らしながら喘いだ。「もう我慢できない…ちょうだい…」

川崎佑哉は彼女の体をうつ伏せにひっくり返し、ペニスを彼女の柔らかな臀部の間で前後に擦りつけた後、背後から一気に挿入した。

「江原安美、たとえ離婚しても、お前は一生、俺の下で喘ぐしかないんだ。」


江原安美はまさか自分がいつか、夫・川崎佑哉と彼の愛人のために結婚指輪をデザインすることになるとは思わなかった。そしてさらに届いたのは、一通の離婚届だった。

彼女は迷わずサインし、彼への想いを断ち切り、妊娠検査の結果を隠して、海外へと旅立った。

その後、彼女は海外で大成功を収め、言い寄る男は数知れず。しかし彼は変わった。彼女に執着し、離れようとせず、目を赤くして「もう一度チャンスをくれ」と懇願した。

彼女の小さな宝物が飛び出して彼の前に立ちはだかり、腰に手を当ててこう言った。「ママに追いつきたいなら、まず列に並んでね!」
未熟

未熟

5.9k 閲覧数 · 連載中 · ほしの なお
結婚3周年の日、見知らぬ相手からのメッセージが私の命を救い、同時に完璧だった結婚生活を木端微塵に砕いた。夫は親友と不倫し、義母は犯罪組織を牛耳る黒幕だった。
嘘の巣窟に囚われた私は、冷徹で権力を持つ弁護士にすがり、復讐を誓う。妊娠の偽装、証拠集め――奴らをすべて破滅させてやる。
だが、私を導く謎の「見知らぬ人」はいったい誰なのか? そして、その弁護士が本当に求めているものとは――?
舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

49k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
18年間、自分が実の娘でないとは知らずに生きてきた。ある日、荷物をすべて玄関の外に放り出され、街角に立ち尽くす私の前に現れたのは、噂では極貧だという「生家」から迎えに来た、見たこともない「兄」。

ところが、その兄が乗ってきたのはトラクターだった。

ガタガタと揺れるトラクターがたどり着いた先は、まるで古城のような大邸宅。そこで私は思い知る。本当の家族のもとに引き取られた私は、貧しくなるどころか、前よりずっと裕福になっていたのだ。

……だが、ちょっと待ってほしい。なぜ私には突然、婚約者というものが存在するのか。しかもその相手は、私の大学の教授だという。誰か、説明してくれないだろうか。
隠された天才:裏の顔が多すぎて、気づけば世界のトップを震撼させていた件

隠された天才:裏の顔が多すぎて、気づけば世界のトップを震撼させていた件

29.4k 閲覧数 · 連載中 · たけの
私の名前は江川莉奈。

育ての親の一家に家を追い出されたあの日、私は微笑みを浮かべながら、奴らが施しとしてよこした金をゴミ箱へと投げ捨てた。

誰も想像すらできないだろう。この私が、数々の名門貴族や権力者たちが大金を積んで列をなし、首を長くして診察を待つ伝説の名医——【暁】だなんて。

私が時価総額数十億ドルのファッション帝国を裏で支配していることも、ウォール街の株価をたった一回の取引で大暴落させられることも、誰も知らない。私はその正体を、この平凡で冴えない素顔の裏にすべて隠し持っていた。

さらに劇的なことに、私の実の親はこの街で頂点に君臨する最高峰の大富豪だった。

そして私の婚約者——すでに顔を合わせているにもかかわらず、その正体を知らなかったあの男こそ、この街の誰もが名前を聞くだけで震え上がる、ビジネス界の冷酷な死神:梅原晴琉だったのだ。

ある日、彼は私の手を執り、ゆっくりと距離を詰めると、耳元で低く囁いた。

「俺のこの鼓動、今なら感じられるか?」

私は至って真面目な顔で彼の胸に手を当て、大真面目にこう返した。

「心拍数は確かに少し高めですが、非常に健康的です。心配ありませんよ」

彼は一瞬呆気にとられ、それからふっと吹き出した。その瞬間の彼の笑顔に、私の心臓もなぜかドクンと跳ねた。それは、自分自身でも説明のつかない初めての衝動だった。

だが、彼が私の真実に一歩ずつ近づくにつれ……私の心は揺らぎ始めている。自分の最後の秘密を、あとどれくらい隠し通せるのだろうか。

外されるはずのなかった仮面——。だが、あの人が執拗にその霧を剥ぎ取ろうとするとき、私は一体どこへ向かえばいいのだろう?
空気のようだった妻が消えた日、俺の空っぽな日常が剥がれ落ちる

空気のようだった妻が消えた日、俺の空っぽな日常が剥がれ落ちる

32.7k 閲覧数 · 連載中 · わたあめ
妻の存在は、いつだって当たり前で、ただそこにあるだけのものだと思っていた。
だが、帰宅した俺を迎えたのは、もぬけの殻になったクローゼットと、机の上に置かれた離婚届だけだった。
三年間、彼女は何を思い、何に耐えていたのか。
初めて向き合った彼女の不在は、何よりも鋭く俺の心臓を抉る。
失って初めて気づく、俺を誰よりも愛していたはずのその手。
タイムリミットが迫る中、俺は彼女という「唯一の場所」を取り戻すために奔走する。
——もう遅いのか、それともこれはやり直すための罰なのか。
監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

123.3k 閲覧数 · 連載中 · 鈴木楓花
監禁から1年。ようやく帰宅した今井心晴を待っていたのは、変わり果てた日常だった。
家族は心晴を探そうともせず、あろうことか姉の今井優奈のために盛大な誕生日パーティーを開いていた。
しかも、その横には心晴の元婚約者の姿が……二人は婚約していたのだ。
しかし、心晴はただの被害者ではなかった。
彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
彼女が選んだ新たなパートナーは、なんと元婚約者の叔父だった。
「これからは私のことを『おばさん』と呼ぶのよ、優奈!」
お払い箱の杖は、夜に咲く

お払い箱の杖は、夜に咲く

5k 閲覧数 · 連載中 · 森川澪
「目が見えるようになった途端、手すりの杖を捨てるのね」

事故で盲目かつ失聴した夫を5年間、溢れる愛で献身的に支え続けた主人公。しかし、五感が戻った夫が最初に抱きしめたのは、かつて彼が愛した初恋の女だった。

家族からも夫からも裏切られた彼女は、未练を一切捨てて離婚を決意。

離婚の理由に「夫の夜の体力不足」という最大の屈辱を書き残し、結婚指輪を捨ててあっさりと家を出る。

夫の好みに合わせてこれまで隠していた「息をのむほど明艶な美貌」を解放し、夜の街へと繰り出した彼女は、一瞬で全場の視線を独占する。

バーのVIP席からその圧倒的な美女を凝視し、なぜか目が離せなくなっている元夫は、まだ気づいていない。それが、自分が「地味で退屈な女」だと見下していた元妻の真の姿だということに……
本物の令嬢は、もう誰にも媚びない ~裏切られた私の、二度目の人生

本物の令嬢は、もう誰にも媚びない ~裏切られた私の、二度目の人生

8.3k 閲覧数 · 連載中 · 神楽
前世の私は、有岡家で最も虐げられた「落ちこぼれお嬢様」だった。
執事の娘・西川安菜を哀れんで手を差し伸べた結果は、地獄。
兄たちの愛を奪われ、文字通り血を吸い尽くされ、体重は40キロを切った。
追い詰められた私は、絶望のまま窓から身を投げた。
死に際の一言は……「で? これから安菜の輸血はどうするの?」という皮肉。
……のはずだったのに。
目を覚ますと、私は三年前——安菜が泣きつかれてきた「あの日」に戻っていた。
可哀想なフリをする彼女を見つめ、私は笑った。
もう二度と、優しさなんて見せない。媚びもしない。
“親切”に立ち振る舞い、彼女を使用人部屋へ追いやって自立させてあげることにした。
彼女ばかり庇うお兄様たちの機嫌取りも、もう終わりだ。
かつて尽くしまくった元婚約者・石野星紀なんて、視界に入れる価値すらない。
勘違いしないで。
今の私は、ただの「有岡家のお嬢様」じゃないんだから——。