第53章 本当に行ってしまった

夜の帳が下りるころ。浅見朝治は一日分の疲労を背中に貼りつけたまま、別荘の玄関扉を押し開けた。

ネクタイを指で緩め、靴を履き替えた、その瞬間。

奥へ踏み込む前に、宇野章華が待ち構えていたように歩み寄ってくる。

「朝治、お祖父さまとお祖母さまが話あるって」

カフスを外しかけた指が、わずかに止まる。

章華の視線に導かれるままダイニングのほうを見ると、向こうから突き刺さるような二つの視線――浅見家の老夫婦が、こちらを値踏みする目で見据えていた。

浅見祖父は顔を固くしている。いつもなら柔らかい浅見祖母まで、今日は機嫌の色が隠せない。

朝治が章華に促されてダイニングへ入ったところで、まだ椅...

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