第8章 故意に

「……ふん」

浅見朝治は喉の奥で冷たく笑い、胸の底をかすめた理由のない焦りをねじ伏せた。

どうせ、駆け引きだ。

金もない。しかも妊娠中。あんな状態で、どこへ行けるというんだ。

三日もしないうちに、泣きついて戻ってくるに決まっている。

それなのに――なぜか。空っぽのクローゼットを見ていると、脳裏に何度もよみがえるのは、さっきの玉井彩歌のあの目だった。

浅見朝治は無意識に手を伸ばし、ハンガーに掛かった外套を掴んで追いかけようとした。

だが、途中でぴたりと止まる。

追う?

この俺が、金のためなら手段を選ばない女を引き留める必要がどこにある。

浅見朝治は乱暴に手を引っ込めた。振り...

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