第86話ペニー

ゆっくりと目が覚める。目覚めたくなんてない。手足が鉛みたいに重くて、眠りが体の奥でとろりと溶けている。ほんの一瞬、世界はふわふわと柔らかく、重さが消える。まるで地上でいちばん温かな場所に沈み込んだみたいに。

それから、瞬きをして――

ベッドにひとりだと気づく。

でも、水の音がする。やわらかく、遠くで。シャワーだ。

心臓が速く脈打ちはじめる。

昨夜のことが洪水みたいに一気に押し寄せる。パーティー、タイラー、手首、家までの帰り道。アッシャーの手。声。耳もとに触れた息。隣にあった体。そこしか安全な場所がないみたいに彼に丸まって寄り添ったこと。彼がそれを許してくれたこと。

私が、彼に触れた...

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