第5章

十一月のパリ。空気には焼き栗の香ばしい匂いが漂っていた。

私はトレンチコートの襟を合わせ、刷り上がったばかりの企画書を抱えて会社のゲートを出た。

セーヌ川から吹き付ける風は湿った冷気を孕んでいて、思わず首をすくめる。

「小林!」

背後からジュリアンの声がした。

振り返ると、彼が息を切らして追いかけてくるのが見えた。手には凝った造りのギフトボックスが握られている。

「これ……僕の手作りなんだ。気に入ってもらえると嬉しいけど」

彼は緊張した面持ちで笑い、箱を差し出した。

受け取った箱は驚くほど軽かった。手折りの包装紙に、ベルベットのリボンが結ばれている。

「小林、...

ログインして続きを読む