第55章 捨てるわけない

「兄貴、あの女が月曜にほんとに会社まで押しかけてきたら、市役所に連れてって離婚しちゃえばいいじゃん。あんなの、うちが大事にする価値ないし」

正木心歌が不機嫌そうに吐き捨てた。

梅崎静も横から畳みかける。

「そうよ、離婚しなさい。あんな女、正木家には釣り合わないわ。それに稲巳、財産のことだけど――あの子に1円たりとも渡しちゃだめよ? 正木家に入ってから何をしてきたっていうの。財産を半分? 虫がよすぎるわ」

「もういい。この話は二度とするな」

正木稲巳が低い声で叱りつけた。

感情の起伏が少ない彼が、珍しく怒りを露わにしたのだ。

正木心歌と梅崎静は、さすがにそれ以上は口をつぐむ。

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