第2章

家路にて、私はわざと藤原潔志を置き去りにするように、前を歩いた。

彼の足音は常に一定の距離を保ち、近づきも離れもしない。私の不満をそのままにさせている。

「絢子」

玄関に立った彼が、平静な声で言った。

「どうして京都のことを事前に教えてくれなかったんだ?」

私は鞄を置き、彼の目をまっすぐに見つめた。

「私は独立した人間です。あなたの所有物ではありません。佐々木教授の古画修復プロジェクトに参加したいと思うことに、何か間違いがありますか?」

藤原潔志は一歩前に出て、軽々と私の腰を抱き、玄関の壁に押し付けた。彼は身をかがめ、私の耳元で囁く。その声色は、残忍なほどに優しかった。

「どうして京都のような見知らぬ環境で危険を冒す必要があるんだ?今の生活は十分に安定しているじゃないか。高価な宝飾品、バッグ、服、普通の人間が羨むようなものはもう全部持っているだろう。これ以上、何を望むというんだ?」

「あなたの意見を求めているのではありません。私の決定を告知しているのです」

私はどうにか声の平穏を保とうと努めた。

彼は手を離し、リビングに入るよう促した。

息が詰まるほどに硬直した空気。私たちの間には、いつだって理解しがたい高い壁が隔てているようだった。

彼の庇護の下で、私は確かに多くを得た。けれど、私は人間だ。

私自身の夢と希望を持っている。

自由が欲しい。挑戦がしたい。完全で独立した自分が欲しい。

将来、病で死ぬ時に、後悔だけを残したくはない。

藤原潔志の眼差しが冷たくなった。彼はふっと笑う。

「絢子、君は僕に君を管理する権利がないとでも思っているのか?」

彼はほとんど抗うことを許さぬまま、私を寝室へと抱きかかえていった。

彼のキスはどれもひどく情熱的で、私は欲望の波に何度も浮き沈みさせられた。

藤原潔志は、どうすれば私が許しを乞い、妥協するのかを熟知していた。もう何度も聞かされた言葉と共に。

「絢子、愛している」

「僕は今世も、来世も、君から離れない」

「君が僕にとってどれほど大切な存在なのか、分かっているのか!」

だが、これほど私に一途で、情熱的な彼も、心臓移植手術の前は、私に対して極めて普通の態度だった。

あの頃、彼はまだ私の主治医で、私は大勢いる患者の一人に過ぎなかった。

手術後、彼は突然、細やかな配慮を見せるようになったが、同時に私の生活に無形の支配を及ぼし始めた。

はっきりと覚えている。彼が自らの手で、田中安子の心臓を私の胸に移植したことを。

その瞬間から、私は彼の執念の器となったのだ。

藤原潔志は今夜、私を説得できないと悟ったらしい。彼は説得をやめ、ハンカチでそっと私の目尻の涙を拭った。

彼の指が、私の胸にある手術の傷跡に軽く触れた。

「絢子、君の心臓移植手術は僕が執刀した。君の健康に対して、僕には決して逃れられない責任がある」

そう言う彼の眼差しは、ひたむきで深かった。

私は答えなかった。

この静寂の中で、私はもうこれ以上こんな理由を受け入れるわけにはいかないと、この「借り物の心臓」が私の人生を縛る枷になることを許してはいけないと、分かっていた。

こんなに疲れる生き方はもう嫌だった。

シャワーを浴びた後、藤原潔志の携帯が突然鳴った。彼は電話に出ると、眉をひそめた。

「どうした、若菜?」

電話の向こうから、田中若菜の泣きじゃくる声が聞こえてくる。姉が大切にしていた和田玉のペンダントを誤って割ってしまった、と話しているのが微かに聞き取れた。

田中若菜は田中安子の妹で、T大学音楽学部の学生だ。姉と容姿は似ているが、より若く活発だった。藤原潔志は彼女の学費と生活費を負担し、何かと面倒を見ていた。

私に会うたび、若菜は表向きは礼儀正しいが、二人きりになるといつも棘のある言葉を投げつけてきた。

「あなたの体に姉さんの心臓がなければ、藤原教授が娶ったのは姉さんだったはずよ」

「もう遅い時間です。たかがペンダントでしょう。明日、様子を見に行ってはだめなのですか?」

私は藤原潔志が深夜に外出するのを引き止めようとした。

なぜなら、私はまだ少し納得がいかなかったのだ。どうして一人の人間が、他人が遺した一つのペンダントにすら敵わないのか、と。

彼は電話を置き、態度はそっけないながらも表面上は丁重に言った。

「早く休んで。僕を待たなくていい」

藤原潔志が去って間もなく、私の携帯に田中若菜からのメッセージが届いた。

『「たかがペンダント」?笑わせるわね。自分が私たち姉妹と同等だとでも思っているの?』

続けてもう一通。

『あなたは姉さんの心臓の器に過ぎないくせに』

そこで私はようやく気づいた。藤原潔志は家を出る前、電話を切っていなかったのかもしれない。田中若菜は、私の先ほどの言葉を聞いていたのだ。

怒りがこみ上げてきて、私は返信した。

「お姉さんの名前を利用して藤原潔志の気を引こうとするあなたが、何か偉そうなことを言える立場なの?」

そのメッセージを送った後、私は静かに天井を見つめた。

すべては、三年前から始まっていた。

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