番外編 陽一

あの日以来、私は意識して眠子を観察するようになった。

父の彼女への態度は終始よそよそしく、ほとんど口を利かず、気にかけることなど論外だった。

眠子がリビングに入ってくると、父はまるで彼女が伝染性の不幸でもまとっているかのように、何かと理由をつけてその場を離れた。

この無言の排斥は、どんな言葉よりも残酷だった。

そして私、彼女の実の兄である私も、かつてはその冷淡さの共犯者だったのだ。

『彼女に償いをしなければ』

私は自分に言い聞かせた。その思いは心の中で根を張り、芽吹いていった。

週末の朝、眠子はリビングで慎重に朝食の準備をしていた。

彼女はいつもこうだ。まるで...

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