番外編 陽一

眠子が大学を卒業した後、誰もが予想したように俺のIT企業には入社しなかった。

彼女は小さなデザイン事務所を選び、自身のキャリアをスタートさせた。

それは彼女がずっと好きだった仕事だった。

「眠子、また髪が伸びたな」

俺はLINEのビデオ通話で妹を見つめる。彼女の黒髪はすでに肩まで垂れ、目の下にははっきりとした隈ができていた。

「うん、最近プロジェクトがちょっと立て込んでて、髪を切りに行く時間がなくて」

眠子はカメラに向かって微笑みかけた。その目には疲労が滲んでいたが、声色にはどこか満足感が漂っていた。

「デザイン案、クライアントに突き返されてやり直しになっちゃった。で...

ログインして続きを読む