第5章

胃の痛みは、以前よりもずっと激しくなっていた。

私はベッドに横たわり、吐き気、嘔吐、腹部の刺すような痛み、そして消化不良に苛まれていた。

医師曰く、これらはすべて末期胃癌の典型的な症状だというが、身をもって体験する現実は、冷たい医学用語より遥かに残酷だった。

あの日、百貨店で陽一と月子に偶然会って以来、彼から連絡は一切なかった。

会社の階段の踊り場で起きたあの出来事は、まるで私達の間に横たわる、決して越えることのできない最後の溝となってしまったかのようだ。

ベッドサイドテーブルの診断報告書を手に取り、三度、その冷たい医学用語に目を通す。

まるで短い旅行の計画を立てるかのように、私は自分に残されたわずかな時間を計算し始めた。

「あとどれくらい、もつのだろう。三ヶ月? それとも四ヶ月?」

私は自分に静かに問いかけた。

「あの苦しい治療を受けるべきだろうか」

そんな思索に耽っていると、ノートパソコンが新着メールの通知音を鳴らした。開いてみると、田中月子からの社内メールだった。

『親愛なる眠子さんへ。今週金曜の夜に行われる、部署の年度末懇親会にぜひご参加ください。場所は銀座の「桜花居酒屋」、時間は夜七時です。ご出席を心よりお待ちしております!』

私はキーボードの上で指をホバリングさせ、この誘いを丁重に断ろうとした。しかし、メールの最後の一文が私の動きを止めた。

『眠子さん、陽一部長は実はあなたの健康をとても心配しています。今回の懇親会はちょうどいい機会ですし、兄妹でゆっくり話してみてはどうでしょうか』

結局、私は参加することにした。

死ぬ前に、同僚達に一度会っておくのもいいだろう。

金曜の夜、私は銀座の高級居酒屋に足を運んだ。

個室の障子を開けると、濃密な酒気と騒がしい談笑の声が真正面から押し寄せてきた。

伝統的な和風の内装が施された個室では、同僚達が低いテーブルを囲んで散り散りに座り、中には既に顔を真っ赤にしている者もいた。

入口に立った私は、場違いな疎外感を覚える。遠くでは、陽一と月子が主賓席に座り、楽しそうに談笑していた。

陽一は私の到着に気づいたが、冷ややかに頷いてみせただけで、すぐに会話に戻ってしまった。

「眠子さん、来てくれたのね!」

月子が甘い声で私に呼びかけ、立ち上がってこちらへ歩いてくる。

私はどうにか微笑みを絞り出したが、胃に突然激痛が走り、立っているのもやっとだった。

「ごめんなさい、少し気分が悪くて。お手洗いに行ってきます」

私は小声でそう告げ、喧騒の個室を後にした。

私はお手洗いには向かわず、そのまま居酒屋外の喫煙エリアへと歩いた。夜風が微かに涼しく、少しだけ心地よく感じられる。私は長椅子に腰掛け、この懇親会が終わるのを待っていた。

「一人でここで何してるんだ?」

背後から、重々しい煙草とアルコールの混ざった匂いと共に、野太い男の声がした。振り返ると、スーツの上着をだらしなく肩に掛け、酔いで顔を赤らめた中年男性がいた。

『佐藤様よ。うちの会社の重要なお取引先。ちゃんと紹介したかったんだけど。眠子さんの仕事にすごく興味を持ってくださってるの』

月子からLINEのメッセージが届いた。

必要ないと返信しようとしたが、佐藤と名乗る男は既に再び近づき、私の手首を掴んでいた。

「お嬢さん、ちょっと話そうじゃないか」

彼の視線が私の顔から胸元へと滑り落ちる。その見覚えのある眼差しは、私を瞬時に高校時代のあの夜へと引き戻した。

彼はあまりにも近く、その匂いと佇まいが、即座に私のパニックを引き起こした。

私は本能的に立ち上がり、彼を突き飛ばす。心臓が激しく脈打っていた。

それでも彼は、私に向かって歩み寄ってくる。

薄暗い光、煙草の匂い、見知らぬ男。

その瞬間、私の理性は崩壊した。私は震える手でバッグから小さなナイフを取り出し、狂ったように振り回した。

ナイフが男の皮膚を切り裂く。

その時だった。

「眠子! 何をしている! 少し落ち着け!」

後方から陽一の声が響き、彼は厳しい口調で私を叱責した。

月子がすぐに駆け寄り、佐藤に深々と頭を下げる。

「大変申し訳ありません、佐藤様! お怪我はございませんか?」

彼女は陽一の方を向き、小声で囁いた。

「陽一お兄様、佐藤様はとても良い方ですの。きっと何かの……」

つまり、すべては私の問題なのだ。

私は感情が崩壊し、月子を突き飛ばそうとしたが、陽一に阻まれた。

もがく中で、私はバランスを失い、地面に倒れ込む。

「一体何を狂っているんだ?」

陽一は私を見下ろし、氷のように冷たい声で言った。

「神宮眠子。お前は病気なんじゃないのか?」

泣きたかった。

けれど、涙は出てこなかった。

私はただ、地面から必死に立ち上がり、彼の目を静かに見据えた。

「ええ。病気です」

もうすぐ、死ぬのだから。

突然、激しい咳が襲ってきた。口元を覆ったが、指の隙間から鮮血が滲み出る。

陽一の表情が瞬時に変わった。彼は無意識に手を伸ばして私を支えようとしたが、私はそれを避けた。

「どうして彼が私に何をしたか訊かないの? あなたは他人の言葉は信じるのに、私の言うことだけは一度も聞こうとしない」

「あなたはいつだって私の気持ちなんてどうでもいいのよ。全部私が悪いと思っているから」

「私は罪人だ。だからお母様は私を産んで死んだ」

私は震えながら言った。

「そうでしょう?」

陽一の表情が一瞬揺らぎ、それから無表情に問い返した。

「事実、そうじゃないのか?」

その通りだ。

そういうことなのだ。

果てしない悲しみが私の脳を満たしたが、どうしても涙は出てこなかった。

この何年もの間、私はあまりにも多く泣きすぎた。

「だから、今からお母様に命で償うの」

これが、私が最後に彼を兄と呼ぶ時だった。

私は微笑んで言った。

「だから、喜んでいいよ」

「私、もうすぐ死ぬから」

「お兄ちゃん」

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