第8章

やがて、父と名乗るあの人もまた去っていった。

私は、長い悪夢に囚われた。

あの汚らわしく不安な記憶が、毒蛇のように私に絡みついてくる。

けれど、私を噛み殺すことはなく、ただ恨めしげにこちらを見つめているだけ。

死んでしまえば、どれほど良いだろう。

それで、すべてが終わるのに。

しかし、私は死にきれなかった。

柚子のおかげで。

不意に携帯の着信音が鳴り響き、画面には「周防柚子」という名前が表示された。

一瞬ためらったが、やはり電話に出ることにした。

「眠子」

柚子の声は、わざとらしく明るさを装っていた。

「最近面白い映画があるんだけど、週末一緒に観...

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