第2章
「え?」
少女は目を丸くした。
「亮一のお母さんは家政婦さんでしょう!それに、自分のお母さんじゃないって嘘ついてたよ。見栄っ張りの嘘つきだから、誰も一緒に遊びたくないの!」
「そうそう、亮一はいつも嘘ばっかり!」
別の男の子が同調する。
「お母さんに捨てられたからパパと住んでるんだって言ってた」
まったく、なんて嫌な子供たちなの!
川島亮一は傍らに立ち、俯いて、小さな手でランドセルの肩紐を固く握りしめている。
「あなたたち、よく聞きなさい」
私はしゃがみ込み、子供たちと目線を合わせた。
「私が亮一のお母さんよ。新しいお母さん」
「これから私に会ったら、川島おばさんと呼びなさい。呼ばなかったら、容赦なく殴るからね!」
私は怒りに任せて拳を振り上げ、遠慮なく言い放った。
子供たちは顔を見合わせ、それから急に四方八方へ散って行った。走りながらもまだ嘘つきと叫んでいる。
「迎えに来てくれて、ありがとうございます」
川島亮一は小声で言った。視線は地面に注がれたままだ。
感謝なんてさせないわよ。私のキャラ設定が崩れるじゃない!
家に帰ると、川島亮一の態度は私の予想を裏切るものだった。彼はおとなしく私の後ろをついてきて、夕食のエビの殻剥きまで手伝い始めたのだ。
「どうぞ」
彼は剥き終わったエビを一匹、おそるおそる私に差し出した。
「手は洗いました」
その丸い瞳が、私の反応を待つかのようにじっと見つめている。
この子、今日に限ってどうしてこんなにおとなしいのかしら?もしかして、今日の私の「悪辣な」振る舞いに怯えたとか?
「うん、上手に剥けてるわね」
私はエビを受け取り、わざと厳粛な顔で評した。
「続けなさい」
彼は再び一心不乱に私のためにエビを剥き続けた。
結局、私がもう食べきれなくなり、ようやくそのエビは彼の胃袋へと収まったのだった。
夕食後、昼間買った服のことを思い出し、この機会に私の「悪辣」計画を続行することに決めた。
子供をいびる以上に良い運動なんてあるものかしら!
「亮一、こっちに来て服を試着しなさい」
私はいくつかの精巧な子供服を取り出した。
最初、川島亮一は試着に大きな興味を示し、それぞれの服のコーディネートについて意気揚々と尋ねてきたりもした。
しかし、十数着目に差し掛かる頃には、彼の小さな顔にはすでに疲労の色が浮かんでいた。
「も……もう着られません」
彼は声を詰まらせ、瞳には涙が光っていた。
はいはい、わかったわよ。どんな悪辣な継母だって、こんな目で見られたら耐えられないわ。
どうやら、別の「悪辣計画」に切り替える必要がありそうね。
しかし、なぜだろう。彼のそのしょんぼりとした様子を見ていると、私の中に奇妙な達成感が湧き上がってくる。
もしかして、「悪辣な」継母でいるのも、そう難しくはないのかもしれない?
