第5章

「若菜」寛貴は勢いよく病室のドアを開けた。

「君に会いたくてたまらなくて、予定より早く戻ってきたんだ」

 若菜は振り返り、不思議そうな目で彼を見た。

「申し訳ありませんが、どちら様ですか?」

 背後から村田が入ってきた。

「土田先生、これが電話でお話しした、例の……イレギュラーな状態でして」

「よせ」寛貴は彼の言葉を遮り、若菜の顔を凝視した。

「記憶は戻ったと医者から聞いている。全部知ってるんだ」

 若菜は彼を見つめ返した。その瞳は、どこまでも空虚だった。

「ごめんなさい」と、彼女はもう一度繰り返した。

「私たち、お知り合いでしょうか」

 寛貴は村田に向き直り、声を荒ら...

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