第8章
テーブルの上に置かれた離婚協議書。それは、手つかずのサンドイッチの皿の脇にあった。
寛貴は若菜の向かいに座っていた。この小さなダイナーに入ってから四十分。若菜のコーヒーはすっかり冷めきっている。
「判は押さない」
寛貴は言った。これで五回目だ。
「もう四十分も経ったわ」
若菜は顔を上げず、スプーンで冷めたコーヒーをかき混ぜている。
寛貴は身を乗り出した。
「俺が死なない限り、離婚はしない」
若菜がようやく顔を上げた。だが、その視線は寛貴を通り越し、彼の背後、店の入り口の方へと向けられていた。彼女の瞳が一瞬、輝いた。ほんのわずかな変化だったが、寛貴は見逃さなかった。...
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