第7章
柏木悠真の表情がこわばり、その瞳に灰色の光が浮かんだ。彼は歯を食いしばり、何かと激しく葛藤しているかのように、長いこと黙り込んでいた。
私はその場に立ち、静かに待っていた。心の中には、かつてのような不安や期待はもうなかった。
「忘れろ、遥」
彼はついに、低い掠れ声で、苦しげに口を開いた。
「この誘拐事件も、あの男のことも、全部忘れろ」
私は応じなかった。
かつて私の心の全てを占めていたその人は、今ではまるで知らない人のように見える。
「俺と結婚したいなら、それでもいい」
柏木悠真は、まるで大きな譲歩でもするかのように、唐突に言った。
「愛情と、お前だけを一途に愛...
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