拉致されたら、元カレが犯人に「こいつを好きに調教していい」と言い放った

拉致されたら、元カレが犯人に「こいつを好きに調教していい」と言い放った

渡り雨 · 完結 · 17.6k 文字

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紹介

私が拉致されたとき、柏木悠真は新しい恋人と海辺でパーティーに興じていた。彼はまるで他人事のように、犯人たちにこう言い放つ。

「しばらく縛っておけ。助けるのは急がない」

「これで少しは大人しくなるだろ。二度と俺を煩わせないなら、好都合だ」

生き延びるため、私は自ら服を脱ぎ、犯人グループのリーダーの体に震える声でしがみついた。「言うことを聞きます。だから、殺さないでください」と懇願しながら。

後日、ようやく私を助けに来ようと思い立った柏木悠真。

しかし、リーダーは嘲笑うかのように、腕の中で昏睡する私を見下ろして言った。

「こいつは疲れ果ててる。お前について行く気力が残ってるとは思えんな」

チャプター 1

 倉庫の空気は、埃と湿った匂いが混じり合っていた。手首が麻縄にきつく縛られ、じりじりと痛む。

 誘拐犯が私のスマートフォンを取り上げ、柏木悠真に電話をかけた。

「柏木君、助けて……」

 私は声を詰まらせた。

「池上遥、お前のその、俺にまとわりつくための手口は、本当に手が込んでいるな」

 電話の向こうの声は、信じられないほど冷え切っていた。

「なに……?」

「昨日、俺の母親を唆して結婚を迫っただけじゃ飽き足らず、今日は自作自演の誘拐か?」

 柏木悠真の声には、あからさまな嫌悪が満ちていた。

「俺が信じるとでも思ったのか?」

 私は必死に首を横に振る。涙で視界が滲んだ。

「違うの! 本当に誘拐されたの! それに、柏木のおば様がどうして急に婚約のことなんて発表したのか、私にもわからなくて……」

 誘拐犯たちが傍らでせせら笑う。リーダー格の「兄貴」がスマートフォンを口元に近づけた。

「柏木家の坊っちゃん。今夜中に五千万円を振り込んでもらえれば、この女は解放してやる」

「金は払う」

 柏木悠真の声は、恐ろしいほどに平坦だった。

「だが、すぐに解放するな。数時間、頭を冷やさせろ。またうちの前に押しかけて騒がれたらたまらん。本当に鬱陶しい女だ」

 その言葉は、一本の刃となって私の心臓を突き刺した。

 十年間待ち続けて、得られたのがこの仕打ちなのか。

「お前らがこいつに手を出した分だけ、きっちり払ってやる」

 柏木悠真は苛立ちの滲む声で付け加えた。

「ちょうどいい。これで少しは大人しくなって、俺にまとわりつかなくなるだろう」

 電話の向こうから、不意に甘えるような女の声が聞こえた。

「悠真、早くこっち来てよぉ」

 続いて、艶めかしい口づけの音が響く。

 彼はすぐに電話を切った。この誘拐が本物だと、微塵も信じていないようだった。

「どうやら柏木家の坊っちゃんは信じてねえようだな」

 兄貴はスマートフォンをしまい、他の連中に言う。

「動画を撮って送れ。そうすりゃ金を払わねえわけにはいかねえ」

 一人の男がスマートフォンを構え、もう一人が薬物を染み込ませたハンカチを持って私に近づいてくる。

 私はもがきながら後ずさるが、縄のせいで身動きが取れない。

「待って! 自分でお金を用意します! 陶芸の工房を持っていて、五千万円はすぐには無理でも、店を担保にすれば……だから、何もしないで!」

「黙れ!」

 田中と呼ばれた男が冷笑して私の言葉を遮る。

「とぼけるな。お前が柏木家の次期嫁候補だってことは、みんな知ってんだ。その指輪は婚約指輪だろ? こっちは調べがついてんだよ。お前は子供の頃から柏木家で育って、柏木夫人はお前を実の娘みてえに可愛がってる。あの坊主がどうでも、柏木家が見殺しにするわけねえだろ」

 男は乱暴に私の襟首を掴んだ。

「動画を送れば、金はすぐ振り込まれる」

 私は必死に抵抗し、涙が堰を切ったように溢れ出した。

「必ずお金を用意しますから! お願いします、時間をください!」

「兄貴、そいつはまずいんじゃ……」

 若い誘拐犯の一人が躊躇いがちに言った。

「黒川組の若様が、最近粛清をやってるって噂が……」

「何をビビってやがる。若様が就任したての挨拶回りみたいなもんだ。まさか俺らのとこまで手が回るかよ」

 兄貴は私の無地のシャツを乱暴に引き裂き、中のキャミソールを露わにした。

 その時だった。倉庫の鉄の扉が、凄まじい勢いで押し開けられ、冷たい風が埃と共に渦を巻いて流れ込んできた。黒いスーツに身を包んだ男が、数人のボディガードを連れて入ってくる。

 誘拐犯たちは、まるで幽霊でも見たかのように、その場に崩れ落ちて平伏した。

「わ、若様……」

「若様? 話が違うじゃ……」

 兄貴が弁解しようと試みるが、冷や汗がすでに彼のシャツを濡らしていた。

 「若様」と呼ばれた男は、彼らを意にも介さず、まっすぐに私の前まで歩み寄ってしゃがみ込む。

 その眼差しは刃のように鋭かったが、私に向けられた瞬間、わずかに和らいだ。

「こいつに薬を?」

 彼は冷たく問うた。

「は、はい、若様。たった今……」

 兄貴がどもりながら答える。

 男はスーツの内ポケットから折り畳みナイフを取り出し、「パチン」という音を立てて刃を開いた。

 煌めく刃先が照明を反射するのを、私は恐怖に凍りつきながら見つめる。

「少し痛むかもしれんが、我慢しろ」

 彼は低く囁いた。

「今、楽にしてやる」

 私は目を見開いた。自分の置かれた状況が信じられない。

「楽に……してくれる?」

 私は、ここで死ぬの?

 柏木悠真に捨てられた、まさにその日に?

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(この小説を軽い気持ちで開くなよ。三日三晩も読み続けちゃうから…)
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