第2章 星

朝比奈鈴視点

須加が帰った後のアパートは、息が詰まるほど静まり返っていた。私はベッドの縁に腰掛け、閉まったままのドアを見つめながら、さっき交わした言葉の一つひとつを頭の中で繰り返す。手の震えが止まらない。

ゆっくりと枕の下に手を伸ばし、何か月も触れずにいたものを取り出した。繊細な銀のネックレスには、小さな星のペンダントがついている。薄暗いランプの光の中で、それは十七歳だった頃とまったく同じようにきらめいていた。

ネックレスを強く握りしめると、手の甲に涙が落ちるのを感じた。

「どうして、こんなことになっちゃったんだろう。須加……」

その言葉は、かろうじて囁きとなって漏れ出た。私は目を閉じ、記憶の波に身を任せる。あの星がすべてを意味していた頃へと、私を連れ戻していく記憶に。

ここへ引っ越してきたのは、八歳の時だった。父が佐谷市から戸茂警察署に転属になったのだ。母は捜査官だった。私たちは警察関係者が多く住む桜通りに居を構えた。

小学校の初日のことを今でも覚えている。校庭で年上の子たちにからかわれていると、九歳の男の子が突然現れた。

「おい、新入りをいじめるのはやめろよ!」

彼は私といじめっ子たちの間に割って入って言った。

「こいつの父さんも、俺の親父さんも警官なんだ。俺たちは仲間だろ!」

それが、牧村須加だった。彼の父親である牧村友康警部は署全体を仕切っており、母親の牧村利紗刑事は少年犯罪を担当していた。その瞬間から、私たちは離れられない存在になった。

私たちの両親もまた親しい友人になった。あの頃は、庭でバーベキューをしたり、大人たちが仕事の話をしている間、須加と二人で芝生を駆け回って蛍を追いかけたり、そんな日々に満ちていた。

牧村家の裏庭の芝生に寝転んで、夜空を見上げていた光景が今でも目に浮かぶ。たぶん十歳くらいだったと思う。

「鈴、あの星を見てみろよ!」

須加が空を指さした。

「すごく明るい……」

「父さんが言ってたんだ。あの星は警察のバッジみたいなもので、上からみんなを守ってるんだって。悪い奴らが悪さをしようとすると、星が光って善い人たちに知らせるんだ」

私は頷いた。

「私の父さんは、警察官はみんなのヒーローだって言ってた」

「じゃあ、俺たちも大人になったらヒーローだな! みんなを守るんだ!」

「うん! 一緒にね!」

そうやって私たちは育った。一緒に。一緒に勉強し、一緒に宿題をし、一緒に未来を夢見た。高校生になると、私たちの友情はゆっくりと、もっと深いものへと変わっていった。

十七歳と十八歳の頃、大学の願書を手に学校の廊下を歩いていた時、何もかもが可能に思えた。

「鈴は、本当に刑事司法学を専攻する気なのか?」

須加がロッカーのそばで立ち止まって訊いた。

「もちろん。両親みたいになりたいから。それに……」

私は一度言葉を切り、彼を見つめた。

「あなたと一緒に宮軒大学に出願したいから」

須加は歩みを止め、私の手を取った。

「鈴、俺たちは一緒に育ってきた。一緒に下してきた決断は、どれも間違ってなかった。俺は君のパートナーになりたい。ただの仕事のパートナーじゃなくて……」

頬が熱くなるのを感じた。

「須加……」

「鈴、君を守りたいし、君にも俺を守ってほしい。この街を一緒に守って、残りの人生も一緒に過ごしたいんだ」

涙が目に溢れたけれど、とても幸せだった。

「うん。一緒に出願して、一緒に未来に向き合おう」

あの廊下で、他の生徒たちが通り過ぎていく中、須加に手を握られながら立っていると、私たちを永遠に引き裂くものなど何もないように感じられた。

ああ、なんて無邪気だったのだろう。愛し合ってさえいれば、永遠に一緒にいられると思っていた。正義を信じてさえいれば、愛する人すべてを守れると思っていた。

その夜、両家は食卓を囲み、私たちの将来について語り合っていた。

その時、すべてが変わった。

銃声が、平和な夜を打ち砕いた。

「咲! 鈴を地下室へ! 今すぐだ!」

父が叫んだ。

「大樹、あなたは――」

「行け! 命令だ!」

母は私の手をつかんで地下室へと引っ張った。けれど、振り返ると、父が銃を構えて玄関へ駆け寄っていくのが見えた。さらに銃声が響き、私の後ろで母が悲鳴を上げるのが聞こえたかと思うと、母は階段に崩れ落ちた。頭から血を流して。

「お母さん! お父さん!」

私は叫んだ。

駆け戻って二人を助けたかった。でも、父の声が家中に響き渡った。

「鈴! 隠れろ! 出てくるな!」

そして、静寂が訪れた。恐ろしいほどの静寂が。

私はあの地下室に三時間隠れ、上の階から聞こえる足音と声に耳を澄ませていた。それが善い人たちなのか、悪い奴らなのかもわからない。ただ暗闇の中で膝を抱え、震えることしかできなかった。

木村隊長と他の警官たちが、ようやく私を見つけ出してくれた。これは警察家族に対する組織的な報復襲撃だったと彼らは言った。多くの家族が標的にされた、と。須加の両親は二人とも殺害された。私の父もまた、殉職した。助かったのは母だけだったが、重い脳外傷を負い、昏睡状態に陥っていた。

病院の廊下で崩れ落ちたのを覚えている。須加が私を抱きしめ、二人で泣きじゃくった。

「鈴……みんな死んじまった……父さんも、母さんも……」

須加は私の肩に顔をうずめて泣いた。

「私の父さんも……お母さんは意識不明で……」

私は声を詰まらせた。

もし須加がいなかったら、あの夜を乗り越えられなかったと思う。

翌日、報道陣がハイエナのように私たちに群がった。彼らのカメラとマイクは、須加に向けられた武器のようだった。質問攻めに遭う彼の目に、絶望と恐怖が浮かんでいるのが見えた。

「こっちへ来て!」

私は須加の手をつかみ、人ごみをかき分けて引っ張った。

私たちは宮軒市川沿いの公園まで、ひたすら走った。

夕日が沈みかけ、水面が最後の光を浴びてきらめいていた。彼はベンチに座り、両手で頭を抱えた。

「鈴、俺はもう警察官になれるかどうかわからない。俺たちは正しいことをしていた。なのに、なぜこんな罰を受けなきゃならないんだ? なぜ善い人たちが死んで、悪い奴らが生きているんだ?」

私は彼の手を強く握った。

「須加、子供の頃、私に言ってくれたこと、覚えてる?星は警察のバッジみたいで、上からみんなを守ってるんだって。ご両親は、今、その星になったのよ。いつも私たちを守ってくれる」

須加は涙の浮かんだ目で私を見た。

「鈴、愛してる。こんな時に言うべきじゃないってわかってる。でも、もう誰も失いたくないんだ」

私は彼の額にキスをした。

「私も愛してる、須加。一緒に乗り越えよう」

だが、須加の家に戻ると、私はお茶を淹れ、こっそりと睡眠薬を混ぜた。

報道陣が来る前、木村隊長が密かに私と会っていたことを、彼は知らなかった。

「鈴、警視庁とDEAが特別対策本部を組織している。我々は『狼組』を壊滅させるための長期的な潜入捜査を計画している。君が必要だ」

「なぜ須加ではなく、私なんですか?」

「須加は今、精神的に不安定だ。衝動的すぎる。だが君には、君の母親の冷静さと、父親の強靭さがある。しかし、そのためには最低でも五年間、姿を消してもらうことになる。須加を含め、誰にも正体を知られてはならない」

正義のため、復讐のため、そして須加を守るため、私はその任務を受け入れた。すべてを犠牲にする覚悟だった。

「須加、温かいお茶を飲んで」

私は涙をこらえながら言った。

「鈴、俺を置いていかないでくれ、頼む……」

薬が効き始めたのか、須加は何かを察したようだった。彼の目は次第にパニックに陥り、言葉のろれつが回らなくなっていく。

私は涙を流しながら、彼の唇にキスをした。

「ごめんね。愛してる、牧村須加。ずっと、愛してる」

須加が眠りに落ちた後、私は彼のナイトスタンドにメモを残した。

「私のことは忘れて。自分の人生を生きて。探さないで」

そして小さなスーツケース一つで、夜の闇に消えた。

その後、私は警視庁がテキサスに持つ訓練施設に送られ、一年間の徹底的な潜入準備訓練を受けた。その間に狼組と繋がりのあるグループと接触し、いずれ戸茂市へ戻るための布石を打った。

あの夜、私は愛するすべてを失った。父を、母を、そして須加を。彼を守るために、彼に私を憎ませなければならなかった。それが、私が選んだ道だった。

今、私は戻ってきた。けれど、再会がこれほど残酷なものになるとは想像もしていなかった。彼は私の望み通り、私を憎んでいる。なのに、どうしてこんなに胸が痛むのだろう?

星のネックレスをさらに強く握りしめる。涙で視界が滲む。外の雨は、すべてが変わってしまったあの夜と同じように、降り続いている。

「須加……あなたに真実を告げる日は、いつか来るのだろうか」

外で雷が鳴り響く。まるで私の心の痛みに応えるかのように。私はネックレスを胸に押し当てる。その小さな星は、かつて須加が言ったように、暗闇の中でまだ輝きを放ち、いつも私を見守ってくれている。

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