第7章 息子に愛していると伝えて

朝比奈鈴視点

「綾瀬依里、こいつを知っているか?」

武井悠の声が地下室に響く。でも、私の耳に届くのは、肋骨に叩きつけられる心臓の音だけ。金属製の椅子に縛り付けられた血まみれの塊を、私は見つめる。顔の筋肉をすべて使って、平静を装う。

「いえ。見たこともありません。誰ですか?」

嘘は毒のような味がした。でも、何も悟られるわけにはいかない。今だけは。

「警視庁の捜査官、瀬戸隆だ。三年間も、俺たちの組織で潜入捜査をしていた」

武井悠が歩み寄り、隆の脇腹を強く蹴り上げる。その音に吐き気がこみ上げてくるけれど、私は目を細めて、精一杯驚いた顔を作ってみせた。

「マジかよ。サツだったの...

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