第8章 世界

牧村須加視点

午前二時、アパートにけたたましく鳴り響く電話の音で、俺は浅い眠りから引きずり出された。画面には『木村隊長』の文字が点滅している。

「牧村、至急俺のオフィスに来い。緊急事態だ」

「隊長、何があったんですか?」

「朝比奈鈴のことだ。お前には真実を知ってもらう必要がある」

心臓が止まるかと思った。最後に彼女の姿を見たのは、あの作戦の時だ。遠くから一瞥しただけ。それ以来、何の音沙汰もない。もう吹っ切れたと思っていた。だが、彼女の名前を聞くだけで、今でも胸が締め付けられる。

電話が終わる前に、俺はもう服を引っかけていた。鍵を掴む手が震えている。

署までの道のりが、...

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