第107章 伏見行哉は、立花郁葉が泣くのが嫌いだ

伏見行哉の声は淡々としていた。

まるで、あとで果物でも食べるかと訊くみたいに。

けれどこの場にいる誰もが、彼が「言うだけ言ってやらない」人間じゃないと知っている。

スティーブンが車のドアを開けて追いかけてきて、息をつく間もなく口を開いた。

「伏見さん、どうかうちの奥様を追い詰めないでください。私たちは先日、墓地へ立花さんのお参りに行ったんです。環境があまり良くなくて……それで、立花さんのお墓を移そうと。善意からです。移転先ももう決めてあります。だから先に立花さんを移して……この件は、かよさんには――」

言葉は、途中でぶつりと断ち切られた。

伏見行哉が片手を上げ、まぶたをわずかに持...

ログインして続きを読む