支配欲

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汐音 · 連載中 · 606.9k 文字

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紹介

【支配欲が極めて強いの暴君 × 従順を装う策謀的な妖艶美女】

立花郁葉は三年間、伏見行哉に付き従ってきた。すべてを賭け、そして最後には、完全に敗れ去った。

彼からは「身の程知らず」と嘲笑われ、「籠の鳥がのし上がろうだなんて」と蔑まれた。

彼の婚約式の前夜、彼女は一言も残さず、完全に姿を消した。

誰も予想だにしなかった。あの権勢を極め、天下に並ぶ者なしとされた伏見行哉が、正気を失うなどと。

地の果てまで探し出してでも、この女を取り戻す——そうして再会した時、彼女はすでに他人の婚約者となっていた。彼はあらゆる手段を尽くし、あらゆる策謀を巡らせて彼女を奪い返し、結婚という檻で彼女を縛りつける。

「伏見社長、しつこく纏わりつくのはやめてください。軽蔑しますよ」

「俺はお前のせいで地獄に堕ちた。お前だけが無事でいられるはずがない。この人生、生きては同じ衾に、死しては同じ墓に。骨を砕かれ灰に撒かれようとも、お前と共にある」

その宴は、死ぬまで終わらない。

彼の一生でただ一つ願うこと——それは彼女を心に永遠に閉じ込めること。たとえ地獄に落ちようと、死しても手放さない。

チャプター 1

立花郁葉は更衣室の扉に押しつけられていた。背後から男の指が喉元を掴み、顔を無理やり横に向けさせる。噛みつくような口づけ。彼女は唇をわずかに開き、浅く息を吸った。

「気に入ったか?」

男は意地の悪い笑みを浮かべる。

扉の外を、足音が早足で通り過ぎた。

足元でスマホがぶるぶる震える。次の瞬間、男が靴先で蹴り飛ばし、さらに遠くへ転がした。

「集中しろ」

立花郁葉は小さな窓越しに、夜空に咲く花火を見上げた。ぼんやりと、意識が遠のく。

男が舌打ちし、軽薄に言う。

「相変わらず使えねえな」

彼女は足元の服をかき集め、倉庫の通路を抜けて急いでフロアへ戻った。

遅刻した彼女に、フロアの責任者は露骨に不機嫌だった。

「今日は川瀬お嬢様の誕生日パーティーよ。あんたのためにやっと取ってきた口なんだからね。一晩で外の一か月分は稼げるんだよ。さっさと行きな」

立花郁葉は無理に笑って、腰のだるさと脚の痺れをこらえながら頭を下げた。

メイド姿の女たちが一斉に扉を開けて入る。

その中で、立花郁葉だけが目を奪った。個室に足を踏み入れた瞬間、視線が一斉に集まる。

生まれつきの魔性。言葉にできない艶と媚びがあるのに、顔立ちは妙に清純で――思わずテーブルに押し倒して乱暴に弄びたくなる。

周囲でひそひそ声が広がった。

立花郁葉は身をかがめて酒を置く。超ミニのメイドスカートがふわりと持ち上がり、長い脚があらわになる。あと少し上がれば、下着が見えるか見えないか。――そもそも、穿いているのかどうか。

男たちの視線が勝手に吸い寄せられていく。

「ほんと、下品」

近くの女たちがくすくす笑う。

「立花郁葉、あんたのパトロン、もう金くれないの?」

ほかのスタッフが驚いたように彼女を見る。

けれど立花郁葉は眉ひとつ動かさず、ゆっくり目を上げた。部屋の中央に座る男へ。

川市一の富豪、伏見行哉。

今日の主役である川瀬嘉詠は、得意げに彼の隣の席を陣取り、まるで女主人のように振る舞っている。

「うん。足りないの。たぶん破産寸前じゃない?」

さらりと言い捨て、立花郁葉は立ち上がって去った。姿は消えても、個室の男たちは魂ごと持っていかれたようだった。

川瀬嘉詠は伏見行哉の横顔を盗み見た。彼は自分を見ていない。――それで少し胸が軽くなる。そうよね。伏見行哉が、あんな安っぽい女に目を向けるはずがない。

「さっきの女、知ってる?」

「知らないわけないだろ。昔は立花煌孝が生きてた頃、立花家は絶頂だったんだ。今じゃ金さえあれば誰でも抱ける」

その瞬間、グラスが床に落ちて割れた。

川瀬嘉詠たちはびくりと肩を跳ねさせる。伏見行哉は煙草に火をつけ、立ち上がって外へ向かった。

川瀬嘉詠が慌てて呼ぶ。

「行哉?」

「うるさい」

そう言いながらも、目のある者なら誰でも分かった。――彼は怒っている。

個室の空気が一気に凍りつき、誰も口を開けなくなった。

立花郁葉がデザートを配り終え、ふらつく足取りでスタッフ休憩室の扉を押し開けると、そこに男が座っていた。

まるで、彼女を待ち構えて清算するつもりだと言わんばかりに。

伏見行哉みたいな男は、権力も地位も、顔もある。挑みたくなるのは当然だ。

けれど三年も寝た今夜、立花郁葉には彼が少しも美味しそうに見えなかった。

――私が飽きたのかも。

男は脚を組み、影の中から冷たい目で彼女を見据える。

指先が、わずかに力を入れた。

立花郁葉の身体がぐらりと傾き、膝をつきそうになる。

ほんとうに嫌な男だ。さっき更衣室で散々弄んだくせに、まだあの「玩具」で彼女を責め立てる。

「金がない? 誰の許しで、そのスカートを外に出して見せびらかした」

「誰の許しもいらない。見せたかっただけ」

体内の疼きをこらえながら、立花郁葉は答えた。

いつも従順な女が、急に噛みつく。伏見行哉は眉をひそめ、ボタンを切った。

「これが10億。お前が欲しがってた海の見える別荘もやる。あとで志村尚に名義変更させる。俺は忙しい。くだらない拗ね方はするな」

譲歩だ。声もさっきより柔らかい。

どうせ、彼は彼女が惨めなほど喜ぶのを見て満足する。さっきの狼狽も、彼の嗜好に刺さったのだろう。

立花郁葉が金を好きなのは、誰もが知っている。

十分に与えれば、彼女は一番おとなしい籠の鳥になる。

案の定、女の艶やかな顔に一瞬だけ喜色が差した。

「三年分の買い取り価格、これで最後?」

伏見行哉の視線が鋭くなる。

「立花郁葉。今日は度が過ぎた」

従わない女は嫌いだ。

彼女は彼に歩み寄り、どさりと膝の上に腰を下ろした。個室へ入る前も、彼はこのメイド服姿を見て更衣室で我慢できなかった。

彼の好みは知っている。

指先で喉仏をなぞり、男の目が深く濁ったところで、立花郁葉は上目遣いに甘い声を落とす。

「だめ?」

ベッドの上なら、彼女が十倍わがままを言っても伏見行哉は許す。

無感情な女は木偶みたいでつまらない。立花郁葉はその匙加減だけは上手かった。わざとらしく、でも可愛げのある範囲で。

「今度は何をしたい」

伏見行哉の呼吸が重くなる。

互いを知り尽くしている。

立花郁葉は突然、彼の喉仏に噛みついた。

「別れたい」

男の手が止まった。

「よく考えてから言え」

口ではそう言いながら、手は悪戯をやめない。彼女が甘い声で縋るのを見たいのだ。

立花郁葉は震えながらも、言葉だけは揺らがない。

「考えた。私、まだ若いの。これ以上は無理」

伏見行哉が乱暴に彼女を放した。

「三日やる。考え直せ」

立花郁葉は床に尻もちをつく。長い髪が肩から落ち、細い腰は折れそうなほどだった。

「いらない。飽きたの。もう、あなたと寝たくない」

空気が凍りつく。

男は扉を叩きつけるように出ていった。

立花郁葉はスマホを拾い上げる。通知は、個室に入る前のニュースで止まっていた。

「速報 SRグループ社長、川瀬家との『融資婚』間近」

伏見行哉は結婚する。

三年つき従った女を、これからも結婚生活の「不倫相手」にするつもりなのか。

吐き気を飲み込みながら、彼女はアプリを開き、伏見行哉の連絡先をすべてブロックした。

着替えを済ませ、その日の給料を精算し、駅へ向かって地下鉄に乗ろうとしたところで、見慣れた車が停まっているのが目に入った。

志村尚がいつもの顔で言う。台詞までいつも通りだ。

「立花嬢、伏見社長が中でお待ちです」

立花郁葉は首をかしげた。

待つことをしない男が、勤務終わりまで待った? 一分遅れただけでベッドの上で倍にして返してくる男が?

乗りたくない。

志村尚はそれを見抜いた。

「立花嬢。自分で乗るのが一番いい選択です」

――引きずり込まれたら、みっともない。そういう意味だ。

立花郁葉はドアを開けた。後部座席には、気圧が底まで落ちた男が座っている。

乗り込んだ瞬間、革のシートに押し倒された。

「ブロック? 立花郁葉、最近、胆が肥えたな。あ?」

想像以上の怒りに、立花郁葉は喉を鳴らす。

彼のコートのボタンを指で弄びながら、気だるげに笑った。

「伏見社長。飽きた女を捨てたと思ってください。さっきのは別れ金。円満解散ってことで」

へらへら言う彼女の顎を、男が強く掴んだ。引き寄せられ、冷えた声が落ちる。

「立花郁葉。ゲームの始め方も終わらせ方も、いつからお前が決める側になった」

立花郁葉は唾を飲み込む。

川市で伏見行哉を敵に回すのは、社会的な死と同義だ。指一本で彼女の人生は終わる。

三年飼って、気まぐれでも色欲でも、まだ飽きていない。

それなのに女のほうが先に離れる?

最近、甘やかしすぎた。調子に乗らせた。

立花郁葉は息を整え、男を見上げる。

「こっち来て」

男の顔に「ほら見ろ」という表情が走り、嘲るように言った。

「どうした? 芝居が過ぎて、今さら後悔か?」

立花郁葉はにっこり笑って、吐き捨てる。

「ふざけんな」

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なぜかって?

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