第110章 誘拐

田中春奈は必死に身をよじった。その拍子に白く細い脚が男の目の前で揺れ動き、まるで男の神経を挑発しているかのようだった。

彼はもともと全身が焼けつくように火照っていたが、今やその奥底にある欲望を抑えきれなくなっていた。

大きな掌が女の両脚をすくい上げて動きを封じ、もう一方の手が彼女の後頭部を押さえつける。彼は抗いがたい衝動に突き動かされ、唇を重ねた。

薄暗い室内で、二人の指と指が絡み合い、忘我の境地で求め、応え合う。

「江口……江口匠海!」

田中春奈は呆然と呟いた。

その目尻に涙が滲む。闇の中で、彼女の脳裏に五年前のあの夜の光景がフラッシュバックした。

「やめ……触らないで、あっ...

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