第128章 田中由衣、味覚を失う

「いいわ、行ってらっしゃい」

田中春奈は、彼の生活に干渉するつもりなど毛頭なかった。

江口匠海は彼女をじっと見つめると、踵を返して立ち去った。

……

一方、電話を切った田中由衣は急いで部屋に戻ると、鏡の前に立ち、弾む心で化粧ポーチを開いた。

今すぐにメイクをして、着飾り、江口匠海の到着を待たなければならない。

術後の経過は順調で、入念なスキンケアを施した肌は照明の下で白く透き通り、ほんのりと紅潮している。田中由衣は嬉しげに口角を上げた。

その顔には、田中春奈の面影が色濃く残っているにもかかわらず。

だが、田中由衣はどうしても江口匠海を手に入れたかったのだ。

彼女は入念にメイ...

ログインして続きを読む