第135章 江口お爺さん倒れる

田中春奈は、きつく拳を握りしめた。身体が小刻みに震えている。田中由衣はどこまでも彼女の許容範囲を踏み荒らし、白を黒と言いくるめるような真似を平然とやってのけた。

江口匠海の瞳は、底知れぬ深淵のように暗く沈んでいた。まさか田中由衣が、江口家の親戚を利用して過去を暴き立て、田中春奈の名誉を徹底的に失墜させようと企んでいるとは、彼も予想だにしていなかったのだ。

「黙れ。聞こえないのか!」

江口匠海の警告を含んだ鋭い視線が、周囲の人々を射抜く。

田中由衣は強情に顔を背け、ボロボロと涙をこぼした。

「匠海、五年前にあなたが薬を盛られた時、身体を張って助けたのは私よ。あの子……流れてしまった赤...

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