第28章

「克哉、どうしてママに電話しなかったの?」田中春奈はそこでようやく我に返った。この子はなんと、真っ先に江口匠海に連絡したというのか?

田中克哉は今、悲しい気持ちでいっぱいだった。ママに電話はした。だが、電話の向こう側は一向に応答がなかったのだ。仕方なく、彼は江口匠海の番号をダイヤルするしかなかった。

その言葉で、田中春奈は自分のスマホに見知らぬ番号からの不在着信が何件も入っていることに気づいた。

「もう遅い時間ですし、送っていきますよ」

そう言うと江口匠海は立ち上がり、田中克哉の手を引いて歩き出した。田中春奈は一瞬呆気にとられる。なんだか江口匠海が怒っているような気がする。彼は何に怒...

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