第67章 宿泊して行く

江口匠海の心に、複雑な感情が湧き上がった。

彼は中島拓哉のそばへ歩み寄り、その肩をぽんと叩いた。「拓哉、ありがとう」

二人の男は、ただ静かにそこに佇んでいた。

しばらくして、「兄さん、俺は身を引くことにした。春奈を巡って争うのはやめる」と、中島拓哉の声にはどこか名残惜しさと諦めが滲んでいた。

江口匠海は何も言わなかったが、その眼差しは固い決意に満ちていた。

彼女を、絶対に裏切らないと。

田中春奈は、上のオフィスで起きていたこの一切を知る由もなかった。退勤時間になり、実験室の入口で再び二人の男が逆光の中をこちらへ歩いてくるのを見て、思わず呆然としてしまう。

この江口家の遺伝子、あ...

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