第68章 事故が起きた

それを聞いた江口匠海は、眉を上げて言った。「俺が付き合ってやる」その声は低く、磁性を帯びており、人を拒絶させない魅力があった。

田中春奈の心は温かくなったが、それでも首を横に振って言った。「ううん、大丈夫。美咲さんが付き合ってくれるから、仕事に行って」

江口匠海は彼女を深く見つめ、身を翻して去っていった。

その動きは素早く、きっぱりとしていた。

田中春奈はどこか呆然としてしまう。

彼の背中がドアの向こうに消えるのを見送りながら、心に言いようのない感情が湧き上がった。

その時、彼女の携帯が鳴った。桜井美咲からの電話だった。電話の向こうの相手は口ごもりながら、急用ができて来られなくな...

ログインして続きを読む