第87章 耐え難い記憶

「うんうん、そうだよ! あそこの教室、広くて綺麗だし、動物もいっぱいいたの。馬に牛に羊、うさぎ……あとね、ちっちゃいネズミもいたよ!」

克哉は目を輝かせ、嬉しそうに指折り数えて言った。

「ネズミ……?」

田中春奈は一瞬、言葉を詰まらせた。名門校にネズミがいるなんて。

想像するだけで鳥肌が立つ。

幼い頃、ネズミに足の指を噛まれた記憶が蘇る。当時、傷口が化膿し、あわや切断かという事態に陥ったのだ。救ってくれたのは、海外帰りの若い医師だった。彼が抗ウイルス剤を投与してくれたおかげで、足は守られた。

それ以来、彼女は医師か、医療に関わる仕事に就くことを夢見るようになった。

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