第96章 自分を酔わせる

江口匠海はグラスを傾けながら、無意識のうちに向かいでひたすら酒を煽っている女に視線を注いでいた。

田中春奈の瞳は虚ろだ。憂さをすべてアルコールで洗い流そうとするかのように、次から次へとグラスを空けていく。

「田中春奈、飲み過ぎだ」

江口匠海はたまらず声をかけた。

その言葉を聞いた田中春奈は、手元のグラスを持ち上げると、江口匠海に向けて軽く掲げてみせ、そのまま一気に飲み干した。

唇を舐めるその目には、挑発と不敵な色が宿っている。『私の勝手でしょ?』とでも言いたげだ。

江口匠海は、そんな彼女の姿に呆れると同時に苛立ちを覚えた。この女は、なぜこうも聞き分けがないのか。泥酔するまで飲まな...

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