第98章 江口匠海への想い

彼は頭を下げ、そっと彼女の唇を塞いだ。その口づけは優しく、そして深かった。まるで彼女が抱える不安や疑念を、すべて呑み込んでしまうかのように。

田中春奈は目眩めまいにも似た感覚に襲われ、きつく瞼を閉じた。男の唇が自身のそれと重なり、甘く絡み合うのに身を任せる。心臓が早鐘を打ち、今にも胸から飛び出してしまいそうだった。

しばらくして、ようやく彼が身体を離した。

艶めかしく濡れた唇と、陶酔に潤んだ瞳を見つめ、男の胸に得体の知れない充足感が込み上げる。

江口匠海は彼女の頬を愛おしげに撫で、低い声で囁いた。

「ほら。もう焼き餅はやめだ。いいな?」

田中春奈は彼の情熱的な眼差しと優しい微笑み...

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