第28章 おバカさんだな

茜音視点

一之瀬敬介の身体が、文字どおり固まった。

私の手首を掴む指先の力が、無意識に強くなる。いつもなら不敵に笑っているはずの目が、今は驚きと傷ついた色でいっぱいだった。彼は私を見据えたまま、凪いだ私の顔から冗談の欠片でも探し出そうとしている――そんな目。

けれど、ない。

私は澄んだままの目で、ただ小さく頷いた。

「俺……」

喉仏が上下する。言葉を探しているのに、全部が喉の奥で詰まって、ひとつも形にならない。

彼の顔に広がる大きな喪失と、飲み込めない悔しさを見ていると、胸の内に説明できない何かがじわりと湧いた。

敬介はぱっと手を離した。火傷でもしたみたいに、みっともなく一歩...

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