第54章 抱きしめてよ

エラのグラスのワインは、すでに底をついていた。

彼女は腕時計をちらりと確認する。リオンが席を外してから、もう20分近い。

着替えに、そんなにかかるものだろうか。

眉をひそめ、入口のほうをもう一度見る。

――リオンの姿はない。

首をかしげた、そのとき。

廊下の向こうから急に騒がしさが押し寄せてきた。あちこちで上がる短い悲鳴、ひそひそとした囁き声が重なり合い、ざわめきが波のように広がっていく。

胸の奥が、ずしりと沈む。

エラはグラスを置くなり立ち上がり、音のするほうへ足早に向かった。

近づくほど人だかりは増え、客たちが三々五々に身を寄せ合って、廊下の突き当たりを覗き込んでいる。...

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