第10章

白石宗一は神宮寺家の執事として、これまで数えきれないほどの修羅場をくぐってきた。

S市屈指の名門である神宮寺家には、虎視眈々と狙う者がいる。あわよくば内側に手を突っ込み、甘い汁を吸おうとする輩も少なくない。

だからこそ、宗一は常に警戒を解かなかった。

神宮寺宗一郎は顎に手を当て、わずかに沈黙する。何かを量るような眼差し。

そのとき――。

コン、コン。

書斎の扉が外から叩かれた。

宗一郎と宗一は視線を交わし、宗一郎が咳払いをひとつする。

「入れ」

扉が静かに開き、墨藍の旗袍に身を包んだ中年の女が入ってきた。細身の体に、隙のない化粧。所作は端正で、足音すら忍ばせるように軽い。

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