第50章

彼は、こんな形で人の記憶に残りたくなかった。いちばん近しい人の心に、消えない傷跡を刻むのも嫌だった。

だからこそ、冷たさで自分を包み、誰からも距離を取った。

この数年、神宮寺玲央はずっと、氷みたいに淡くて、近寄りがたいままだった。

――朝比奈澪が現れるまでは。

二十数年ぶりに、神宮寺蓮司は弟の中に、幼い子どもみたいな無邪気さを見た。

笑っているうちに、蓮司はふいに目の奥がつん、と痛くなるのを感じた。視界が滲む。

手の甲で目尻を拭って、ようやく気づく。いつの間にか、目元が濡れていた。

     *

一方で。

朝比奈澪は車に乗り込んだ瞬間、眠気がどっと押し寄せた。

気づけば、...

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