第8章
朝比奈澪が連れ戻されてから一か月あまり。朝比奈家の人間は彼女をまるで空気みたいに扱い、使用人でさえ正面から目を合わせようとしない。そんな澪に、こんな高価な薬を渡すはずがない。
まして朝比奈隆之は、昔から露骨に損得で動く男だ。
もし本当に春華丹なんて持っていたなら、とっくに名門相手に差し出して利益に換えている。寵愛されない娘の手元に残すわけがない。
朝比奈澪は冷たい床にぺたんと座ったまま、どこか気の抜けた調子で言った。
「暇だったから、適当にこねて遊んだだけだよ」
白石宗一の背筋がぞくりと粟立つ。
反射的に神宮寺玲央を見た。唇がわずかに震えている。澪の一言が、冗談だと笑い飛ばせない...
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