死んだ私へ、母からの伝言

死んだ私へ、母からの伝言

大宮西幸 · 完結 · 22.1k 文字

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紹介

私、死んだのかもしれない。

目を開けた瞬間、私は見知らぬ場所に立っていた。廃墟になった遊園地だ。
遠くでパトカーのサイレンが鳴り響き、どんどん近づいてくる。

そして、彼女が見えた。
回転木馬に座っている女の子。ピンクのTシャツにジーンズ。
顔は紙のように白く、目は見開かれ、口は少し開いている。
何か恐ろしいものを見たような表情だった。

ああ、なんてこと。
あれは私だ。あれが私の身体だ。

チャプター 1

百合視点

 私は死んだのだと思う。

 目を開けた瞬間、私は見知らぬ場所に立っていた。そこは廃遊園地だった。遠くでパトカーのサイレンが鳴り響き、その音はだんだんと近づいてくる。

 そして、彼女を見た。メリーゴーラウンドに座っている女の子。ピンクのTシャツにジーンズ姿。顔色は紙のように白く、目は見開き、口は半開きで、何か心の底から恐ろしいものを見たかのような表情だった。

 嘘……。あれは私だ。あれは、私の体だ。

 メリーゴーラウンドはゆっくりと回り続けていた。その横には千代おばあちゃんが立っていて、止まらなくなったゼンマイ仕掛けのおもちゃのように、機械的な動作でそれを押し続けていた。彼女はブツブツと呟いていた。「もう一回乗りたいって。あと一回だけ。あの子、もう一回乗りたいって……。あと一回だけ……」

「おばあちゃん!」

 私は叫んだが、彼女は全く反応しなかった。

 私は駆け寄って肩を掴もうとした。私の手は彼女の体をすり抜け、あの灰色のカーディガンを通り抜け、まるで空気を掴んだようだった。私は凍りつき、半透明になった自分の手のひらを見つめた。

 本当に死んでしまったんだ。その事実は、氷水を頭から浴びせられたような衝撃だった。足の力が抜けたけれど、倒れることはなかった。もう体がないからだ。

 なぜ? 何があったの?

 記憶を辿ってみる。今朝はいつも通り学校へ行った。放課後、お母さんが迎えに来てくれた。いつもはおばあちゃんなのに、お母さんが来るなんて珍しい。でもあの日、お母さんの顔には新しい痣があった。左目は腫れ上がってほとんど塞がり、口の端には乾いた血がこびりついていた。お母さんは私の手を強く握りしめ、震える声で言った。「今度こそ本当に出るのよ、百合。本当に逃げるの」

 その瞬間、複雑な感情が押し寄せたのを覚えている。興奮、恐怖、希望、そして名状しがたい不安。お父さんから離れるんだ。やっと逃げられるんだ。

 それから? それからは空白だ。誰かが私の記憶からそのページを消し去ったみたいに。次に何が起きたのか、どうやって死んだのか、思い出せない。

 二台のパトカーが入り口で急ブレーキをかけて止まり、ドアが乱暴に開いた。一人の女性が降りてきた。黒髪をポニーテールにまとめ、濃紺の制服を着て、胸には記章が光っている。

 彼女はメリーゴーラウンドの方へ歩いてきた。おばあちゃんは警察が来たことにも気づかず、機械的に押し続け、あの言葉を繰り返している。

 刑事はメリーゴーラウンドの前で足を止め、私の死体に視線を落とした。彼女の表情が崩れるのを私は見た。プロとしての冷静さがわずかに揺らぎ、瞳が和らぎ、悲しみの色が浮かんだ。彼女は一歩踏み出し、手袋を外すと、そっと私の手首に指を当てた。

「ごめんね、お嬢ちゃん」彼女は静かに言った。「何があったのか、必ず突き止めるから」

 私はその場に立ったまま、心の中でつぶやいた。真実?

 彼女は振り返り、後ろにいる誰かに声をかけた。「高木、鑑識を呼んで。それから、そのご婦人を離れた場所へ連れて行って。話を聞く必要があるわ」

 若い警官が近づき、慎重におばあちゃんの腕を取った。「奥さん、こちらへ来てください。少しお話を伺いたいんです」おばあちゃんは混乱した様子で彼を見つめたが、その目は虚ろで焦点が合っていなかった。

 鑑識班が機材を持って到着し、ゴム手袋とマスクをつけて現場検証を始めた。

 刑事は公園の端、ボロボロのコートを着た男が立っている方へ歩いて行った。彼は夜風に吹かれ、痩せた体を震わせていた。彼女は手帳を取り出し、新しいページを開いた。

「名前は?」

「智良……。林智良だ」長年の路上生活ですり減ったような、しわがれた声だった。

「通報したのは林さんですか?」

「ああ。俺はあそこの橋の下に住んでるんだ」彼は遠くの高架橋を指差した。「今日の夕方六時頃、あのお婆さんが小さな女の子を連れてここに入ってくるのを見たんだ。まだ日は落ちてなかった。ただ遊んでるだけだと思った」

「それから?」

「それから、二人はずっとあのメリーゴーラウンドにいた。お婆さんが押し続けて、女の子が上に乗ってて。女の子の笑い声が聞こえたんだ……」彼は言葉を詰まらせた。「お婆ちゃんと孫の、微笑ましい時間だと思ってたんだ」

「何かがおかしいと気づいたのは、いつ?」

「十一時頃かな。寝ようとしてたんだが、二人はまだそこにいたんだ。メリーゴーラウンドも回ったままでな。だから、お婆さんが何か困ってるのかと思って近づいてみたんだ。そしたら……」

 彼の顔から血の気が引いていった。

「女の子の顔が見えたんだ。目が……なんてこった、あの子はもう死んでたんだよ」

 刑事は素早くメモを取った。「二人が六時からここにいたというのは確かなのね?」

「ああ、間違いない。近くのお寺の鐘が六時に鳴るから覚えてるんだ。鐘の音が止んだのと同時に入ってきたからな」

 六時?

 今はもう深夜を回っている。つまり、私は六時間以上もこのメリーゴーラウンドに乗っていたということ? でも、その六時間の記憶が全くない。その時間はどこへ消えてしまったの?

 刑事はメリーゴーラウンドの方へ戻った。鑑識課の警察官がピンセットで私の服から慎重に繊維を採取しており、別の係員がメリーゴーラウンドの高さや角度を計測していた。

「死因は?」彼女が尋ねた。

 監察医が顔を上げ、マスクをずらした。「初期判断では心停止です。この子には先天性の心疾患の既往歴があったようです。ここを見てください」彼は私の首にある細い傷を指差した。「心臓手術の痕です。死亡推定時刻は、今夜の六時から七時の間でしょう」

「六時から七時……」刑事はそう繰り返し、ベンチに座っているおばあちゃんに視線を移した。

 彼女は歩み寄り、おばあちゃんと目線が合うようにしゃがみ込んだ。「宮本千代さんですね?」

 おばあちゃんはゆっくりと頷いた。

「今日、お孫さんとここへ来たのはいつですか?」

「さあ……一時間くらい前かしら?」おばあちゃんは自信なさげに言った。「時間が経つのは早いわねえ」

「目撃者は、夕方六時からあなたがたがここにいたと言っています。現在は深夜の十二時半です」刑事の声色は穏やかなままだった。

 おばあちゃんの表情はさらに混乱していった。一生懸命思い出そうとするかのように眉をひそめる。「六時? いえ……そんなはずないわ。私たちはほんの少し遊んでいただけよ。百合がメリーゴーラウンドに乗りたいって言うから、連れてきたの。ほんの少しだけ」

「百合ちゃんは今、どうしていますか?」

「あの子は寝てるのよ」おばあちゃんは落ち着いた様子で、愛おしそうに微笑みさえした。「遊び疲れて、眠っちゃったの。子供ってそういうものでしょ」

 刑事はおばあちゃんの目を見つめた。その白く濁り、焦点の定まらない瞳には、嘘も隠し事もなく、ただ純粋な混乱と当惑だけが漂っていた。彼女は立ち上がると、傍らにいる警官に小声で指示した。「ご家族に連絡して。それから、ご家族の同意を得て医療記録を確認して。アルツハイマー型認知症の進行度を知りたいの」

 私は忙しく動き回る人々の間に立ち尽くし、彼らが写真を撮り、証拠を集め、供述を取る様子を眺めていた。私はすぐここに立っているのに、自分の死について何一つわからないままだった。

 刑事がパトカーに戻り、携帯電話を取り出した。私は彼女の後を追った。

「ええ、被害者は宮本百合、十歳。祖母は宮本千代、重度のアルツハイマーです」彼女の声は事務的なものに変わっていた。「現時点では痛ましい事故と思われます。記憶障害のあるおばあさんが孫を廃遊園地に長時間留め置き、そのストレスが心停止を引き起こした可能性が高い。ですが……」

 彼女は言葉を切り、遠くでゆっくりと回り続けるメリーゴーラウンドに視線をやった。

「辻褄が合わない点がいくつかあります。裏付けが必要です。明日、家族に会ってきます」

 彼女は電話を切ると、車のドアにもたれかかり、タバコに火をつけた。煙が冷たい夜気の中を漂い、彼女の顔は明滅する光と影の中に消えていった。

 私は彼女を見つめた。この人は、本当に真実を見つけられるのだろうか?

 鑑識班が私の体を動かし始めた。彼らは私を黒い死体袋に入れた。私の体、私の過去、わずか十年の人生が、あの黒い袋に詰め込まれ、救急車に乗せられていくのを見送った。

 警官たちがおばあちゃんをパトカーに乗せた。彼女はまだ混乱した様子で辺りを見回していた。「百合はどこ?」彼女の声には不安が滲んでいた。「百合はどこへ行ったの? 連れて帰らなきゃ」

 誰も彼女には答えなかった。

 一台、また一台と車が走り去っていく。私だけが残された。

 私は廃遊園地の何もない中心に立ち、最後のパトカー、あの刑事の車が出て行くのを見ていた。

 私はついて行った。他に行くところなんてない。それに、彼女は真実を見つけると約束してくれたから。

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