第百十八章

ETグループから正式な人事辞令が下り、紬は同グループのアジア太平洋地域担当副社長に昇進した。国内の医療市場における新規開拓と事業展開の全権を委ねられることになったのだ。

海外での全プロジェクトの引き継ぎを滞りなく済ませた紬は、一見すると落ち着き払っているようだったが、その胸のうちはすでに大きく波打っていた。今回の帰国は、単なるキャリアの新たな一歩ではない。あの骨の髄まで刻み込まれた過去と、真っ向から対峙することを意味していた。

出発の前夜。夜の帳が静かに下りていた。

「国内の市場環境は複雑で、競争も激しい。人間関係や法規制への対応、チームのすり合わせなど、何もかもが海外とは勝手が違う。...

ログインして続きを読む