第12章

黒のレンジローバーがハザードランプを点滅させて路肩に停まっている。紬がふと視線を向けると、運転席にいる人物が峥だと気づき、わずかに目を丸くした。

どうして彼がここに?

紬は小さく唇を噛み締め、キャリーケースの持ち手を握りしめたまま、その場から動けなかった。

峥はウィンドウを下げ、顔を覗かせて言った。

「乗れ」

「結構です。もうタクシーを呼んだので」

紬は首を振る。キャリーケースを握る掌には、すでにじっとりと汗が滲んでいた。こんな惨めな姿を、彼に見られたくなかった。

それに、彼の手助けなど必要ない。

彼は今、姉の恋人だ。距離を置かなければならない。

彼女が頑なに動こうとしない...

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