第1章
土砂降りの雨が降りしきり、稲光が走り雷鳴が轟く。
私は宮崎家のマンションの下に立ち、母の遺骨が納められた箱を上着でそっと覆っていた。雨粒が骨壺に落ち、母の安寧を乱すのではないかと恐れて。
呼び鈴は鳴り続けている。私はそれを何度も押し、インターホンに向かって言った。
「光一、開けて。ママが帰ってきたわよ」
マンションの部屋は煌々と明かりが灯っているのに、誰も応答しない。
夫の梅之助は出張中。息子の光一は暖かい家の中で、テレビから聞こえてくるアニメの音がかすかに耳に届く。
しばらく待っていると、ようやくインターホンが点灯し、息子の冷たい声が聞こえてきた。
「なんで出かけるのに合鍵も持っていかないんだよ? バカだな! 自分で何とかしろよ!」
その口調は、梅之助が私を叱りつける時とそっくりだった。
七歳の子供が、もう父親の軽蔑を身につけてしまっている。
私は深く息を吸い込んだ。雨水が髪を伝って目に入り、まるで涙のようだった。
「最後にもう一度言うわ、光一、ドアを開けなさい」
応答はない。
インターホンの明かりは消え、テレビの音はさらに大きくなった。
外の世界は静まり返り、ただ土砂降りの雨が、まるで永遠に止まないかのように降り続いている。私はずぶ濡れになり、頭もそれに伴って冴えわたってきた。
ここは、私の家じゃない。
それに、母親をドアの外に締め出すような子供を、私は持たない。
だから私は同じ日に、母と子供を失ったのだ。
私は腕の中の骨壺にそっと囁いた。
「大丈夫よ、お母さん。行きましょう、あなたを家に連れて帰るから」
あの、私たちの家に。
富裕層エリアの高級マンションに背を向け、私はタクシーに乗り込み、街の反対側にある団地へと向かった。
車窓の外では、ネオンの光が雨に滲んでぼやけた色の塊になり、まるで私の過去十年間の人生のようだった——表向きは華やかで、実態は混沌としている。
車を降り、私は古びた公営住宅の建物に入った。狭い階段に漂う馴染みのある匂いが、私を不思議と安心させた。
しかし、母の家の前に立って、ようやく自分が鍵を持っていないことに気づいた。
深夜十時。私は仕方なく隣のドアをノックした。
以前母がここにいた頃、隣のおばさんには色々と世話になった。きっと彼女の家にうちの合鍵があるはずだと思った。
ドアが開き、そこに立っていたのはおばさんの娘、栗原優智だった。
彼女はかつての親友で、私たちは何でも話せる仲だったが、私が梅之助と知り合ってから、ほとんど連絡を絶っていた。
十年ぶりに会ったというのに、彼女はほとんど変わっていないように見えた。ただ、短い髪が栗色に染められ、眼差しに鋭さが加わっている。
「杏乃?」
彼女は眉を上げ、冷たい口調で言った。
「何か用?」
「鍵、忘れちゃって。予備のを貸してもらえる?」
彼女は私の腕の中の骨壺に目をやったが、何も聞かずに、引き出しから鍵を取り出して私に手渡した。
私たちの間の空気は息が詰まるほどに固まり、かつて何でも話せた友情などまるで存在しなかったかのようだ。
「ありがとう」
私が小声で礼を言うと、彼女は頷き、ドアを閉めた。
母の家に入ると、すべてが生前のままに保たれていた。どこもかしこも綺麗に整えられていて、まるで彼女が少し外出しているだけかのようだった。
私は骨壺をそっと仏壇に置き、指先でテーブルを撫でる。そこにはやはり薄っすらと埃が積もっていた。
母はとても内気な人だった。私のために、家庭内暴力を振るう父と勇気を出して離婚し、私たちは何年も寄り添って生きてきた。その後、私が梅之助と結婚し、母を一緒に住まわせようとしたが、母は冷淡な梅之助と彼女を嫌う光一を見て、それを断った。今度はもっと良い場所に引っ越すよう勧めたが、それも断られた。
彼女は言った。
「ここは杏乃が育った場所じゃないの。ここに住んでいれば、ずっと杏乃と一緒にいられる気がするのよ」
彼女はいつも私のことを考えてくれていた。癌のことさえ、末期になるまで私に知らせなかった。
今、彼女はいなくなり、私に残されたのはこの小さなアパートと、一冊の預金通帳と、彼女の遺骨だけだ。
突然、呼び鈴が鳴った。光一が探しに来たのかと思い、私は怒りに満ちてドアを乱暴に開けた。しかし、そこに立っていたのは栗原優智で、手には湯気の立つ生姜湯の入ったお椀を持っていた。
彼女の後ろでは、五歳くらいの男の子が不思議そうに私を見つめている。
「そんなに濡れてるのにシャワーも浴びずに着替えもしないで、風邪でも引くつもり?」
栗原は私の返事を待たずにずかずかと部屋に入り、テーブルに生姜湯を置いた。
「これ飲んで、熱いシャワー浴びてきなさい」
私はその場に立ち尽くし、かつての親友とその息子が、母の家で我が物顔で歩き回るのを見ていた。
体が冷え切っていて、もう耐えられそうになかった。私は急いで浴室でシャワーを浴びた。
熱いシャワーは確かに体を楽にしてくれたが、洗い流せたのは表面的な冷たさだけで、心の底の冷えは消え去らなかった。
リビングに足を踏み入れた途端、私はその場で固まった。テレビでは楽しげなアニメが流れており、小さな男の子が畳の上で胡坐をかいて、画面を夢中で見ている。栗原優智はその傍らで母の雑誌や本を整理し、元の場所に戻していた。
その光景に私はふと我に返り、まるで十年前に戻ったかのような、私たちの間に隔たりなど存在しなかったかのような錯覚に陥った。
男の子は私の存在に気づいたのか、こちらを振り返った。丸い顔に満面の笑みを浮かべ、舌足らずな声で叫んだ。
「杏乃おばちゃん!」
その「おばちゃん」という呼び声に、私は一瞬どう反応していいかわからなかった。
栗原優智がこちらへ歩み寄り、炊き立ての白粥を差し出してくれた。上には少しの梅干しの果肉と刻み海苔が散らしてある。
「温かいうちに食べなさい。少しはエネルギー補給しないと」
彼女の口調は先ほどより柔らかくなっていた。
「私の息子、栗原大地。今年で五歳、幼稚園に通い始めたところ」
彼女はそう紹介し、その声には明らかな誇りが滲んでいた。
「結婚したの?」
私は驚いて尋ねた。
「いつの間に?」
記憶の中の栗原優智は、ずっと断固たる非婚主義者だった。私たちは昔、年を取ったら一緒に田舎で民宿を開いて、野良猫を何匹か引き取って、男に邪魔されない悠々自適な生活を送ろうと約束していたのに。
「子供を産むのに結婚が必須だなんて誰が決めたの?」
栗原優智は眉を上げた。
「杏乃、あんたって相変わらず古風なんだから」
