母が死んだ日、私は息子に締め出された

母が死んだ日、私は息子に締め出された

渡り雨 · 完結 · 18.3k 文字

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紹介

恩返しのつもりで、宮崎梅之助と付き合い始めた。
ヤンデレで偏執的な彼に受け入れられるまで、三年もかかった。

成人した途端、彼は私を無理やり役所に連れて行き入籍。その後、予期せぬ妊娠を経て、息子の光一が生まれた。

光一が七歳になるまで、結婚式はついぞ挙げてもらえなかった。

彼はいつも不安に駆られ、狂ったように私の限界を試し、本当に自分を愛しているのかと繰り返し確認を求めてくる。
そして息子は、そんな父親の姿を見て育ったせいか、母親である私に敬意を払うことを知らない。

そんなある日、母が亡くなった。

たった一人で火葬まで済ませ、心身ともに疲れ果てて家に帰ると——
事情を知らない息子に、わざと家から締め出されてしまった。

チャプター 1

 土砂降りの雨が降りしきり、稲光が走り雷鳴が轟く。

 私は宮崎家のマンションの下に立ち、母の遺骨が納められた箱を上着でそっと覆っていた。雨粒が骨壺に落ち、母の安寧を乱すのではないかと恐れて。

 呼び鈴は鳴り続けている。私はそれを何度も押し、インターホンに向かって言った。

「光一、開けて。ママが帰ってきたわよ」

 マンションの部屋は煌々と明かりが灯っているのに、誰も応答しない。

 夫の梅之助は出張中。息子の光一は暖かい家の中で、テレビから聞こえてくるアニメの音がかすかに耳に届く。

 しばらく待っていると、ようやくインターホンが点灯し、息子の冷たい声が聞こえてきた。

「なんで出かけるのに合鍵も持っていかないんだよ? バカだな! 自分で何とかしろよ!」

 その口調は、梅之助が私を叱りつける時とそっくりだった。

 七歳の子供が、もう父親の軽蔑を身につけてしまっている。

 私は深く息を吸い込んだ。雨水が髪を伝って目に入り、まるで涙のようだった。

「最後にもう一度言うわ、光一、ドアを開けなさい」

 応答はない。

 インターホンの明かりは消え、テレビの音はさらに大きくなった。

 外の世界は静まり返り、ただ土砂降りの雨が、まるで永遠に止まないかのように降り続いている。私はずぶ濡れになり、頭もそれに伴って冴えわたってきた。

 ここは、私の家じゃない。

 それに、母親をドアの外に締め出すような子供を、私は持たない。

 だから私は同じ日に、母と子供を失ったのだ。

 私は腕の中の骨壺にそっと囁いた。

「大丈夫よ、お母さん。行きましょう、あなたを家に連れて帰るから」

 あの、私たちの家に。

 富裕層エリアの高級マンションに背を向け、私はタクシーに乗り込み、街の反対側にある団地へと向かった。

 車窓の外では、ネオンの光が雨に滲んでぼやけた色の塊になり、まるで私の過去十年間の人生のようだった——表向きは華やかで、実態は混沌としている。

 車を降り、私は古びた公営住宅の建物に入った。狭い階段に漂う馴染みのある匂いが、私を不思議と安心させた。

 しかし、母の家の前に立って、ようやく自分が鍵を持っていないことに気づいた。

 深夜十時。私は仕方なく隣のドアをノックした。

 以前母がここにいた頃、隣のおばさんには色々と世話になった。きっと彼女の家にうちの合鍵があるはずだと思った。

 ドアが開き、そこに立っていたのはおばさんの娘、栗原優智だった。

 彼女はかつての親友で、私たちは何でも話せる仲だったが、私が梅之助と知り合ってから、ほとんど連絡を絶っていた。

 十年ぶりに会ったというのに、彼女はほとんど変わっていないように見えた。ただ、短い髪が栗色に染められ、眼差しに鋭さが加わっている。

「杏乃?」

 彼女は眉を上げ、冷たい口調で言った。

「何か用?」

「鍵、忘れちゃって。予備のを貸してもらえる?」

 彼女は私の腕の中の骨壺に目をやったが、何も聞かずに、引き出しから鍵を取り出して私に手渡した。

 私たちの間の空気は息が詰まるほどに固まり、かつて何でも話せた友情などまるで存在しなかったかのようだ。

「ありがとう」

 私が小声で礼を言うと、彼女は頷き、ドアを閉めた。

 母の家に入ると、すべてが生前のままに保たれていた。どこもかしこも綺麗に整えられていて、まるで彼女が少し外出しているだけかのようだった。

 私は骨壺をそっと仏壇に置き、指先でテーブルを撫でる。そこにはやはり薄っすらと埃が積もっていた。

 母はとても内気な人だった。私のために、家庭内暴力を振るう父と勇気を出して離婚し、私たちは何年も寄り添って生きてきた。その後、私が梅之助と結婚し、母を一緒に住まわせようとしたが、母は冷淡な梅之助と彼女を嫌う光一を見て、それを断った。今度はもっと良い場所に引っ越すよう勧めたが、それも断られた。

 彼女は言った。

「ここは杏乃が育った場所じゃないの。ここに住んでいれば、ずっと杏乃と一緒にいられる気がするのよ」

 彼女はいつも私のことを考えてくれていた。癌のことさえ、末期になるまで私に知らせなかった。

 今、彼女はいなくなり、私に残されたのはこの小さなアパートと、一冊の預金通帳と、彼女の遺骨だけだ。

 突然、呼び鈴が鳴った。光一が探しに来たのかと思い、私は怒りに満ちてドアを乱暴に開けた。しかし、そこに立っていたのは栗原優智で、手には湯気の立つ生姜湯の入ったお椀を持っていた。

 彼女の後ろでは、五歳くらいの男の子が不思議そうに私を見つめている。

「そんなに濡れてるのにシャワーも浴びずに着替えもしないで、風邪でも引くつもり?」

 栗原は私の返事を待たずにずかずかと部屋に入り、テーブルに生姜湯を置いた。

「これ飲んで、熱いシャワー浴びてきなさい」

 私はその場に立ち尽くし、かつての親友とその息子が、母の家で我が物顔で歩き回るのを見ていた。

 体が冷え切っていて、もう耐えられそうになかった。私は急いで浴室でシャワーを浴びた。

 熱いシャワーは確かに体を楽にしてくれたが、洗い流せたのは表面的な冷たさだけで、心の底の冷えは消え去らなかった。

 リビングに足を踏み入れた途端、私はその場で固まった。テレビでは楽しげなアニメが流れており、小さな男の子が畳の上で胡坐をかいて、画面を夢中で見ている。栗原優智はその傍らで母の雑誌や本を整理し、元の場所に戻していた。

 その光景に私はふと我に返り、まるで十年前に戻ったかのような、私たちの間に隔たりなど存在しなかったかのような錯覚に陥った。

 男の子は私の存在に気づいたのか、こちらを振り返った。丸い顔に満面の笑みを浮かべ、舌足らずな声で叫んだ。

「杏乃おばちゃん!」

 その「おばちゃん」という呼び声に、私は一瞬どう反応していいかわからなかった。

 栗原優智がこちらへ歩み寄り、炊き立ての白粥を差し出してくれた。上には少しの梅干しの果肉と刻み海苔が散らしてある。

「温かいうちに食べなさい。少しはエネルギー補給しないと」

 彼女の口調は先ほどより柔らかくなっていた。

「私の息子、栗原大地。今年で五歳、幼稚園に通い始めたところ」

 彼女はそう紹介し、その声には明らかな誇りが滲んでいた。

「結婚したの?」

 私は驚いて尋ねた。

「いつの間に?」

 記憶の中の栗原優智は、ずっと断固たる非婚主義者だった。私たちは昔、年を取ったら一緒に田舎で民宿を開いて、野良猫を何匹か引き取って、男に邪魔されない悠々自適な生活を送ろうと約束していたのに。

「子供を産むのに結婚が必須だなんて誰が決めたの?」

 栗原優智は眉を上げた。

「杏乃、あんたって相変わらず古風なんだから」

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全能令嬢の帰還、家族が倒産?

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父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。

しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
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何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。

そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。

「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」

紅蓮が流し目をひとつ送る。

「婚約、破棄しなくていいの?」

「しない」

彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。