第8章

手術当日、私は生まれて初めて、香奈を隣人に預けることになった。その小さな体を腕から手放す時、私の指先は震えていた。一秒、また一秒と離れているのが、たまらなくつらかった。

「手術が成功すれば、明日には光が見えますよ」

医師は自信に満ちた声で言ったが、私の胃はきりきりと痛んだままだった。

麻酔が効き始め、意識がゆっくりと沈んでいく。それは、これまで私が知っていた闇とは違う、どこか温かな、可能性に満ちた暗闇だった。朦朧とする意識の底で、孝介くんの声が聞こえたような気がした。

『目を開けて、雪乃。この美しい世界を見るんだ』

「……ゆっくりと、目を開けてください」

私は息を殺し、言...

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