第9章

私たちは、孝介くんが手紙で勧めてくれた、海辺の小さな町へ引っ越した。彼が描いてくれた通りのすべてが、そこにはあった。抜けるような青い空、綿菓子のような白い雲、そして子供が安全に育つことができる、穏やかな時間。

新しい家は大きくはなかったけれど、私がずっと夢見ていた小さな庭があった。香奈の部屋は柔らかなピンク色に塗り、光を受けてきらめく蝶のモビールを天井から吊るした。

「見て、香奈。これはね、バラっていうお花よ」

初めて庭に香奈を抱いて連れ出す。孝介くんがしてくれたように、一つ一つの名前を教えると、彼女は好奇心に満ちた小さな手を伸ばし、おそるおそる花びらに触れた。

『彼がいたら、...

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