第32章

「グラントさん?」

「わ、わたし……っ……」

 少女は顔を覆ったまま、ぼろぼろと泣き崩れた。

「わたしも、あの人が誰なのか分からないんです……現れるときはいつも黒いマントで、顔を見せてくれなくて……」

「その前に――」

 ニール王子が言葉を切る。ポケットからロンラカを一枚取り出し、静かに告げた。

「グラントさんには、失礼を承知で」

 彼はそれを差し出した。

 所作は相変わらず優雅だった。だが淑女に向けるには、あまりに容赦がない。白手袋を相手の頬へ投げつけて、「潔白を示せ。さもなくば決闘だ」と言い放つような冷たさ。

 小沢かなは、それが当然だと思った。

 幼い頃から一国の王...

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